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2025 01.09 18:00

異分野融合/連携ゼミナール 2024年度⑥「未知と観測」開催レポート

2025年1月9日(木)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「未知と観測」を開催しました。東京大学の森脇可奈氏と、筑波大学システム情報系の河本浩明氏を講師に迎え、宇宙の研究とサイバニクスの最前線について、それぞれ観測とシミュレーションに基づいたアプローチから講演をいただきました。

シミュレーションとデータ科学的手法を用いた宇宙の研究
森脇可奈(東京大学)

宇宙の起源や構造形成を解明するために、シミュレーションと観測データを融合させるというアプローチを中心に、現代の宇宙物理学の研究手法について解説いただきました。

高感度望遠鏡で天の川外を観測すると、多様な天体、とりわけ渦巻く円盤状の銀河が多数見える。研究では画像を銀河位置の点群へと還元し、一見ランダムな点の並びの統計的性質に注目している。広域観測では北天に広がる銀河分布地図が得られる。二次元画像から三次元分布の特定へ進むため、距離測定が要となる。遠いほど速く遠ざかるという宇宙膨張の関係を用い、ドップラー効果による赤方偏移と輝線のずれから速度・距離を決定する。その結果得られた三次元分布には、銀河が糸状に連なるフィラメントと空隙からなる大規模構造が現れ、初期ゆらぎが重力で成長する数値シミュレーションで再現される。銀河分布は暗黒物質・暗黒エネルギーや膨張史の性質を峻別する強力な手がかりで、観測と比較すると「冷たい暗黒物質+膨張宇宙」の標準モデルが最も整合的であるとされている。

現状の観測でも暗黒成分や膨張像は見えているが、初期状態の起源、膨張の原因、物質成分の質量、銀河形成など未解明な部分は多い。鍵は、より遠方・広域の銀河分布を高効率に測ることになる。従来の銀河ごとの分光は高コストのため、広視野で各ピクセルの分光を行う基線強度マッピング観測を各国機関が推進しており、NASAの衛星、豪州のアンテナ、日本の望遠鏡など実装が進んでいる。しかし複数の基線が重なり距離の異なる構造が混入するため、その分離が課題となっている。一般のノイズ除去は構造的ノイズに弱かったが、窓越し夜景の反射分離に着想を得てU-Net+GANで“手前/遠方”の分離を学習した。今後はピクセル条件や信頼性評価を詰めていく必要がある。加えて学習データはシミュレーションに依存し、銀河形成を含む高い忠実度の計算はコストが高い。そこで、大域構造の類似性に着目し、暗黒物質のみの安価なデータで事前学習したのち、実際の銀河データで微調整をするトランスフォーマーを構築した。宇宙論パラメータの推定で、事前学習なしより良好な整合を確認することができた。このように、観測×AI×物理知識の統合で、宇宙論の精度の限界に挑んでいきたい。

サイバニクスが切り開く装着型サイボーグHAL
河本浩明(筑波大学 システム情報系)

サイバニクスとは、人や社会の複合課題を解決するための新しい学問領域である。人、ロボット・AI、情報系を中心として、脳・神経科学、行動科学、情報技術、ロボット工学、生理学、心理学、哲学、倫理、法学、経営、システム情報技術などの異分野を融合複合し、社会実装を見据えた学術・技術分野のことを指す。

サイバニクスという分野の中で、装着型サイボーグHAL(Hybrid Assistive Limb)の開発を進めてきた。装着型サイボーグHALは、脚部に組み込んだアクチュエータの駆動によって人体の動作を直接補助し、歩行や姿勢保持の負荷を下げつつ、運動機能の回復・強化・維持をねらう装置として位置づけられる。形態は用途に応じて拡張していて、全身を支えるフルボディ型、下肢を重点的に支援するタイプ、上肢・手に特化したタイプ、さらに単一関節のみを対象とするモジュールまで、多層的な構成でラインアップしている。身につけて一体化するという設計思想により、ユーザーはロボット側の出力を自分の身体感覚に重ね合わせながら利用でき、アシスト/補助による負担軽減だけでなく、継続的な使用を通じた機能改善にもつなげることができる。想定する適用領域も広く、リハビリテーションの現場での運動訓練や回復期サポート、歩行空間(ウォーキングエリア)での移動支援、介護場面での身体介助・自立促進など、人の力を“強化・補助・再生(改善)”する方向へ展開している。

人と機械の融合の核心は“意思”の伝達であり、生体信号(筋電など)を用いて一体化を実現してきた。治療では、疾患で途切れた運動-感覚ループをHALで再結合し、評価を通じて身体機能の改善・回復を目指す。補助では腰部の負荷を低減することになるが、装着系ゆえ逃がした力は脚やベルトへと再配分されるため、ほかの部位に過剰な負荷がかからないような力学設計が要点になる。さらにHALは駆動だけでなく観測機能も担っている。二台連携で他者へ運動の様子を伝えたり、または自身の左の運動を右へ伝えるということもできるようになっている。

文責:浦田淳司

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