2024年10月24日にMDA異分野融合/連携ゼミナール「モニタリングと持続可能性」を行いました(MDAセミナーとしても併催)。気候変動が人類・地球と切り離せない問題になる中で、MDAなどの科学的手法を用いて、現状を把握し、問題を特定し、解決に導く研究は、様々な分野で取り組まれています。そうした中で、地球規模課題での二酸化炭素の陸域モニタリングに取り組む三枝信子氏(国立環境研究所)と、農業分野での自動化(農業用ロボや画像解析)に取り組むアハメド・トファエル氏(筑波大学生命環境系)をお呼びし、セミナーを行いました。
三枝信子氏(国立環境研究所)
三枝信子氏からは、気候変動と温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みとしてのCO2モニタリング技術の発展の話しを中心にお話しいただきました。
気候変動問題の深刻化に伴い、CO2の動態を正確に把握することの重要性が高まっている。CO2の主な発生源は産業活動や森林伐採などだが、その排出削減には陸域や海洋の吸収メカニズムをより深く理解する必要がある。
特に、森林の役割に焦点をあてると、森林は光合成を通じてCO2を吸収するが、夜間や冬季には呼吸によってCO2を放出するため、年間を通じた吸収量を正確に評価することが求められている。従来のモニタリング手法では、樹木の成長から炭素の蓄積量を推定する方法が主流だったが、現在、気象観測用のタワーを森林に建て、CO2の吸収・放出のリアルタイムデータを収集する試みを行っている。この社会実装が進めば、世界中の森林のCO2吸収量を同一基準で比較できるようになり、気候変動モデルの精度向上に寄与できる。各国で観測すると、地域により気象条件や森林の樹木種が異なり、CO2の吸収・排出の特徴が異なっていることがわかる。特に熱帯林は短期的な吸収よりも長期的に大量の炭素を蓄えている点が重要であり、大規模な伐採が行われるとCO2の放出が増加し、地球全体の炭素バランスに悪影響を与える可能性が明らかになった。
また、近年、人工衛星や飛行機を用いた広域モニタリング技術も発展している。これにより、地上での観測が難しい地域や海洋のCO2動態も把握可能となり、今後の気候変動対策において貴重なデータが収集できそうである。特に、飛行機や貨物船を活用した大気中のCO2濃度測定の取り組みが、国内外の組織・企業の協力のもと進行している。CO2モニタリングにおいて、国際的なネットワーク構築は一つの重要な要素である。こうした観測データを用いて、数値モデルと融合し、逆推定を行うことで、CO2の排出量や吸収量を高い精度で予測できるようになり、今後の温暖化対策の指針となりうると考えている。
アハメド トファエル氏(生命環境系)
アハメド・トファエル氏からは、農業の効率化と持続可能性の向上を目指して、データサイエンス、IoT、AI技術を駆使したスマート農業の最新研究・開発についてお話しいただきました。
農業分野での自動化技術の進化に注目が集まっており、自動運転ロボットやドローンを取り入れることで、農薬散布や収穫作業の効率化を目指している。特に、小型ロボットによるスマート農業の推進が進んでおり、データを活用して環境に応じた最適な作業を行う仕組みの進化に取り組んでいる。こうした自動化技術は、農業従事者の高齢化問題にも対応しうる。
具体には、AIとデータ解析技術を用いた農作物の管理の技術がある。カメラやセンサーを用いて土壌や作物の状態をリアルタイムで把握し、農作物の成長や病気の早期発見を可能にする技術を開発している。レタスの痛みの発見や、卵の食用可能期間の判定、必要な箇所にだけ農薬を散布する技術などをセンシングと組み合わせて、発展させており、実用化されれば、食料面での持続可能性に大きく貢献しうる。また、AIを活用したデータ解析により、気候変動の影響を考慮した農業計画を立てることも可能になっており、持続可能な農業に近づいている。こうした農業ロボットの小型化やデータ分析技術の進化により、従来の労働集約的な農業からの脱却が期待されています。
また、スマート農業の未来像について考えてみると、今後の技術革新が進めば、完全自動化農場の実現にも行きつくだろう。つまり、レベル4やレベル5の自動化技術が普及することで、人手を介さずに作業が行える未来が現実のものになりつつある。このような技術進化は、農業分野における効率化だけでなく、環境負荷の軽減や食料供給の安定にも寄与するだろう。