研究者情報
林 隆生(指導教員 : 牛島 光一)
資源配分(道路投資など)が政治的にゆがめられる「優遇政策」は、いまも世界中で起きています。この優遇政策は経済発展を阻害することが知られています。主に途上国では、こういった政治的暴力を被り、つらい思いをしている人々が多くいるでしょう。
この問題の救世主として注目されているのが、世界中で推進されている民主化です。民主化といえば、公平な政治を目指すイメージが湧きますし、たしかに優遇政策を解決しそうです。果たしてどのくらい効果があるのでしょうか?
民主化については、賢く正義感にあふれる先生方が世界中で活発に議論しています。ある優秀な研究者は「民主化によってアフリカの汚職が消えるのではないか!」と言いますが、それを見た別の研究者は「いやいや、民主化後にも汚職の証拠を見つけた!」と意見します。さらに、「ときには民主化で優遇政策がむしろ増えるのだ!」という主張も。民主化の推進に関する科学的な証拠は、まだまだ足りません。
そこで、私は昭和期の日本の民主化における、道路建設の配分を使った優遇政策を検証します。昭和期の民主化では、アカウンタビリティ(説明責任、政治の透明度)が弱いまま、民主化されたと考えられます。この民主化では、果たしてどうでしょうか?
民主化が優遇政策を解決するかどうかを明らかにするのは非常に難しいことです。データの制約や、民主化以外に道路建設配分に与える影響が邪魔でうまく分析できません。私は以下の方法で対処しています。
以上から、民主化(による選挙構造の変化)のみが優遇政策に与える影響を計測することを可能にします。
分析による結果は図3の通りです。
統計的なデータ分析の結果、優遇政策が行われていたと言うことができる(*付き)のは民主化後のみであることが分かりました。これは、表面上公平な選挙制度の導入によって、選挙干渉や政治活動の弾圧が不可能になったことで、逆に優遇政策をしてまで票を買うインセンティブが生まれたのではないでしょうか。アカウンタビリティが脆弱なまま民主化することは、逆に資源配分をゆがめる可能性を示唆しており、本研究は今後民主化に関する議論をするうえで重要な意味を持ちます。
具体的に優遇政策があったのはどういった地域なのか、二点明らかにしました。
分析結果から、優遇政策が行われていたのは民主化後のみで、それ以前は行われていなかったという非常に重要な知見が得られました。つまり、日本の昭和前期において、優遇政策は民主主義下でも存在していた、むしろ民主化と同時に行われ始めたということになります。
アカウンタビリティが脆弱なまま民主化することは、逆に資源配分をゆがめるインセンティブをもった選挙構造を生んでしまう可能性を指摘します。この結果は決して民主化自体を否定するものではありません。しかし、アカウンタビリティの徹底が伴わない場合は危険性をはらんでいるということを強く主張したいと思います。
この記事は、以下の論文を要約したものです。
林 隆生(2022)選挙制度と資源配分のゆがみ-昭和前期の事例-、2021年度 筑波大学 大学院 博士課程システム 情報工学研究群 修士論文。