【高大連携・豊島岡7】タイパの良いお弁当: 栄養バランスを保ちつつ調理時間を最小化する献立最適化モデル

研究者情報

筑波大学TA 齋藤郁馬 吉田響 長澤繁宗

1 はじめに

近年,共働き世帯の増加や在宅勤務・時差出勤などの影響により,朝の時間帯の家事負担はますます大きくなっている。
その中でも「お弁当づくり」は,栄養バランスへの配慮と時間制約の両方を満たす必要があり,特に負担感が大きい家事のひとつといえる。

本研究のきっかけは,自身の家庭における生活の変化である。母が異動により早朝の会議が増え,私たち姉妹のためにそれまでよりも早く起きてお弁当作りをするようになった。
この経験から,

「栄養バランスを保ちつつ,短時間で作ることができるタイパの良いお弁当」

を,数理的に設計できないかと考え,本研究を行った。

2 研究目的

本研究では,次のリサーチクエスチョン(RQ)を設定する。

RQ:栄養バランスを保ちつつ,お弁当作成時間を最小にする料理の組み合わせは何か。

対象は主に 15〜17 歳女子とし,1 日の推定エネルギー必要量の 25〜40% を弁当で賄うことを目標とする。
また,厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025 年版)」に基づき,PFC バランス(タンパク質・脂質・炭水化物のエネルギー比率)を

  • タンパク質:13〜20%
  • 脂質:20〜30%
  • 炭水化物:50〜65%

の範囲に収めることを条件とする。

本研究の目的は,これらの栄養条件および実務的な調理条件を満たしつつ,
6 日分のお弁当の最大調理時間を最小化する最適献立を求めることである。

3 問題設定

3.1 対象とするお弁当の構成

夏休み期間を想定し,6 日分の弁当献立をまとめて決める。1 日あたりの弁当は,以下の料理カテゴリから構成される。

  • ごはん(160g 固定)
  • 主菜(1〜2 品)
  • 副菜(2〜3 品)
  • 冷凍食品(0〜1 品)
  • 卵焼き(1 品)
  • その他(果物やデザート等,1 品)

ごはんは,すべての日で 160g を入れるものとし,栄養計算ではごはん分のカロリー・PFC を固定値として加算する。

3.2 料理データと栄養情報

各料理について,以下の情報を用意する。

  • カロリー(kcal)
  • タンパク質量(g)
  • 脂質量(g)
  • 炭水化物量(g)
  • 調理時間レベル(1〜5 の整数)

カロリーと栄養素の情報は,主に「カロリー Slism」*1 から取得した。
お弁当の容量には限りがあるため,エネルギー必要量が 2,500 kcal 以下の場合には,
1 食あたりの分量を 0.8 倍として計算するなどの調整を行った。

3.3 調理時間の定義

各料理には 1〜5 の調理時間レベルを付与し,例えば次のように対応づける。

  • 1:作り置き(前日までに準備済みで,詰めるだけ)
  • 3:炒め物など,中程度の手間
  • 5:揚げ物など,最も手間のかかる料理

1 日あたりのお弁当作成時間は,主菜・副菜・冷食・卵焼き・その他の調理時間レベルの合計とし,
複数の品を同時に調理しないものと仮定する。

*1
https://calorie.slism.jp/
(2025 年 9 月 20 日閲覧)

3.4 献立作成におけるルール

6 日分の献立に対して,以下のような実務的なルールを課す。

  • 同じ料理は週に 1 回まで(主菜・副菜・卵焼き・その他)。
  • 冷凍食品は週に 2 回まで。
  • ごま和え・きんぴら・ナムルなどの定番副菜も週 1 回まで。
  • ほうれん草を使った料理は,同じ日に複数入れない。
  • 各日の献立は上記のカテゴリごとの品数制約を満たす。

これらの条件をすべて満たしつつ,6 日間で最も時間がかかる日の調理時間を最小化する問題として,整数計画モデルを構築する。

4 数理モデルの定式化

本節では,6 日分の弁当献立作成問題を 0–1 整数計画問題として定式化する。

4.1 集合

  • 日付集合:D = {1, 2, …, 6}(6 日分)
  • 料理カテゴリ集合:

    C = {M, S, F, E, O}

    ここで,M: 主菜,S: 副菜,F: 冷凍食品,E: 卵焼き,O: その他とする。ごはんは固定のため,決定変数には含めない。

  • 料理集合:R 各カテゴリごとの部分集合を RcRcC)とする。
  • 週 1 回までとしたい料理集合:RonceR(例:各主菜・副菜・卵焼き・その他,ごま和え・きんぴら・ナムルなど)
  • ほうれん草を含む料理集合:RspinachR

4.2 パラメータ

  • Etot:1 日の推定エネルギー必要量(kcal)
  • Erice:ごはん 160g によるエネルギー(kcal)
  • er:料理 rR のエネルギー(kcal)
  • pr:料理 rR のタンパク質量(g)
  • fr:料理 rR の脂質量(g)
  • cr:料理 rR の炭水化物量(g)
  • tr:料理 rR の調理時間レベル(1〜5 の整数)
  • LM = 1,UM = 2:主菜の 1 日あたりの下限・上限個数
  • LS = 2,US = 3:副菜の 1 日あたりの下限・上限個数
  • UF = 1:冷凍食品の 1 日あたりの上限個数
  • UF,week = 2:冷凍食品の 6 日間トータル上限個数
  • 卵焼き・その他は各日 1 品ずつとする。

PFC バランスの制約に用いるエネルギー換算係数は,下記の通りである。

1 g タンパク質 = 4 kcal,1 g 脂質 = 9 kcal,1 g 炭水化物 = 4 kcal.

4.3 意思決定変数

  • dD,カテゴリ cC,料理 rRc の採用を表す 0–1 変数

x
dcr

=
{

1

(日 d
のカテゴリ c
に料理 r
を採用する場合)

0
(それ以外)

  • dD の総調理時間(レベルの合計)を表す連続変数

Td ≥ 0

  • 6 日間の最大調理時間を表す変数

Tmax ≥ 0

4.4 目的関数

本研究の目的は,6 日間における 1 日あたり最大の調理時間を最小化することである。これを次のように表す。

min Z = Tmax. (1)

4.5 制約条件

4.5.1 調理時間に関する制約

各日 d の総調理時間 Td は,各料理の調理時間レベルの合計で定義される。

Td = ∑cCrRc tr xdcr (∀dD). (2)

また,Tmax は全日 dTd 以上でなければならない。

TmaxTd (∀dD). (3)
4.5.2 カテゴリごとの品数制約

各カテゴリに対して,日ごとの品数条件を課す。

主菜(1〜2 品)

LM ≤ ∑rRM xd,M,rUM (∀dD). (4)

副菜(2〜3 品)

LS ≤ ∑rRS xd,S,rUS (∀dD). (5)

冷凍食品(0〜1 品/日,6 日で 2 品まで)

rRF xd,F,rUF (∀dD), (6)
dDrRF xd,F,rUF,week. (7)

卵焼き・その他(各日 1 品)

rRE xd,E,r = 1,
rRO xd,O,r = 1 (∀dD).
(8)
4.5.3 重複禁止制約(週 1 回までの料理)

同じ料理を 6 日間で 1 回までに制限する。

dDcC xdcr ≤ 1 (∀rRonce). (9)
4.5.4 ほうれん草料理の同日重複禁止

ほうれん草を使った料理(rRspinach)について,同じ日に複数入らないよう制約する。

cCrRspinach xdcr ≤ 1 (∀dD). (10)
4.5.5 カロリー制約

d の弁当全体のエネルギーを Ed とする。ごはん 160g によるエネルギー Erice を含めて,

Ed = Erice + ∑cCrRc er xdcr (∀dD). (11)

1 日の推定エネルギー必要量 Etot に対して,弁当は 25〜40% を賄うものとする。

0.25 EtotEd ≤ 0.40 Etot (∀dD). (12)
4.5.6 PFC バランス制約

タンパク質由来のエネルギー Ed(P),脂質由来のエネルギー Ed(F)
炭水化物由来のエネルギー Ed(C) を次のように定義する。

Ed(P) = Erice(P) + 4 ∑cCrRc pr xdcr, (13)
Ed(F) = Erice(F) + 9 ∑cCrRc fr xdcr, (14)
Ed(C) = Erice(C) + 4 ∑cCrRc cr xdcr, (15)

ここで Erice(P) などはごはん 160g に由来するタンパク質・脂質・炭水化物のエネルギーとする。

PFC バランスの条件は

0.13 EdEd(P) ≤ 0.20 Ed (∀dD), (16)
0.20 EdEd(F) ≤ 0.30 Ed (∀dD), (17)
0.50 EdEd(C) ≤ 0.65 Ed (∀dD). (18)
4.5.7 変数の領域制約
xdcr ∈ {0,1} (∀dD, ∀cC, ∀rRc), (19)
Td ≥ 0 (∀dD), (20)
Tmax ≥ 0. (21)

以上により,本問題は 0–1 整数計画問題として定式化される。

5 実行結果

本モデルを用いて,15〜17 歳女子を想定した 6 日分の弁当献立の最適化を行った。
推定エネルギー必要量 Etot を個人ごとに計算し,それに応じて弁当 1 食あたりの目標エネルギーを設定した。

図 1 に,最適化によって得られた 6 日分の献立例を示す
(実際のレポートでは,各日の主菜・副菜・冷食・卵焼き・その他の具体名を表形式で掲載する)。

得られた解では,すべての日で

  • カロリーが 0.25Etot〜0.40Etot の範囲内
  • PFC バランスが指定範囲内
  • 冷凍食品は週 2 回以下
  • 同一料理は週 1 回まで

という条件を満たしつつ,6 日間で最も調理時間が長い日でも,事前に想定したベースライン
(手作りで好きなものを詰めた場合)より短い時間に抑えられた。
最適化によって得られた 6 日分の献立例

図1: 最適化によって得られた 6 日分の献立例

6 考察

最適化の結果,以下のような傾向が見られた。

  • 調理時間レベルの高い「揚げ物」などが連続して選ばれることはなく,作り置きや冷凍食品をうまく組み合わせた献立が多く選ばれた。
  • 一方で,人気の高い唐揚げなどが最適解に現れないケースがあった。これは,唐揚げの調理時間レベルが高く設定されており,「最大調理時間」を最小化する目的からは不利になるためだと考えられる。
  • 副菜については,作り置き前提であっても「週 1 回まで」という制約が厳しく,実務上は「作り置き副菜は連続で入ってもよい」等の制約緩和も検討の余地がある。

また,本モデルでは食材の季節性や年齢別の食べやすさなどは考慮していない。
例えば,冬にみかんを入れる,幼児向けに一口大に切るなど,季節性・年齢適合性を組み込むことで,
さらに実用的な献立提案が可能になると考えられる。

7 今後の展望

今後の発展として,以下の方向性が考えられる。

  • 人気度(満足度)の導入:唐揚げなどの人気メニューに重みを与え,調理時間と満足度のトレードオフを扱う多目的最適化モデルへの拡張。
  • 副菜の作り置きのモデル化:作り置き副菜を複数日にわたって利用できるようにし,「仕込み時間」と「当日時間」を分けて扱うモデルへの拡張。
  • 季節・年齢への対応:春夏秋冬や年齢層別に料理候補セットを変えることで,より現実的で個別最適な献立提案を行う。
  • アプリケーション化:Gradio を用いたインターフェースの改良(Interface → Blocks への変更)により,
    ユーザーが自分の条件(年齢・性別・活動レベル・嫌いな食材など)を入力すると,
    自動的に 6 日分の献立と買い物リストが出てくる仕組みを目指す。

Gradio による献立最適化アプリの画面イメージ

図2: Gradio による献立最適化アプリの画面イメージ

Gradio による献立最適化アプリの結果画面

図3: Gradio による献立最適化アプリの結果画面

8 結論

本研究では,「タイパの良いお弁当」をテーマに,栄養バランスと調理時間を同時に満たす 6 日分の献立最適化モデルを構築した。

主菜・副菜・冷凍食品・卵焼き・その他の組み合わせを 0–1 整数計画問題として定式化し,

  • 1 日あたりのカロリーが推定エネルギー必要量の 25〜40% の範囲に収まること
  • PFC バランスが指定範囲を満たすこと
  • 料理の重複回数や冷凍食品の使用回数などの実務的制約を守ること

を条件としつつ,6 日間の最大調理時間を最小化する献立を求めることに成功した。

さらに,個人のエネルギー必要量を計算し,一食分量の調整(0.8 倍など)を取り入れることで,
3 歳以上・男女すべての年代に対しても,同様のモデルを用いて献立を立案できる可能性を示した
(ただし,年齢に応じた食べやすさ等は今後の課題である)。

本研究は,忙しい現代人にとって「タイパ良く,かつ健康的なお弁当づくり」を支援するツールの基盤となりうると考えられる。

参考文献・謝辞

ご指導いただいた TA の長沢繁宗さん,吉瀬教授,長沢瑞季先生,根岸先生に感謝いたします。
また,長沢ゼミの皆様,筑波大学の齋藤さん・吉田さんをはじめ関係の皆様に感謝いたします。

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