【高大連携・豊島岡2】 避難場所の最適配置

研究者情報

豊島岡女子学園高等学校2班 圷百菜 新井いづみ 安井清花 筑波大学TA 野坂佳悠 但木陸 和田菜々里

1 はじめに:研究背景と目的

近年,集中豪雨や台風などによる水害が頻発している。特に都市部では,アスファルト等での舗装面積が広く雨水が地中へ浸透しにくいことから,
外水氾濫による都市型水害が発生しやすいという課題がある。一度洪水が発生すると,住宅や住民に被害が及ぶまでの時間は短く,
避難場所までの移動時間が長い地域では住民の生命が危険にさらされる可能性が高い。

本研究では,「避難にかかる時間は避難に要する労力に比例する」と仮定し,避難距離に属性ごとの重みを掛け合わせた値を「避難労力」と定義する。
そして,避難者の中で最も大きな避難労力を被る者の負担をできるだけ小さく抑えるため,最大避難労力を最小化する避難場所の最適配置を検討することを目的とする。
特に千葉県銚子市を対象に,町字ごとの人口属性や位置情報を踏まえた施設配置の最適化を試みた。

2 関連研究

避難場所の最適配置問題は施設配置問題として広く研究されている。特に,住民が避難可能な最大距離以内に必ず避難先を持つようにする問題は集合被覆問題と密接に関係している。

集合被覆問題は,対象集合をカバーする最小の部分集合を選択することで,コストを最小化することを目的とする。
田中健一による「施設配置の数理モデル」[1] では,収容能力や距離制約を考慮した施設配置問題の数理的枠組みが紹介されており,本研究はこれを参考にしている。

3 問題設定

銚子市について以下のデータを収集した [2]:

  • 町字ごとの世帯構成別人口(一般・親子・高齢者・拡大家族)
  • 町字ごとの緯度・経度
  • 洪水時の避難に適した避難場所候補地の緯度・経度

本研究ではこれらをもとに,避難者がどの避難場所に向かうかを同時に決める施設配置問題として定式化する。

避難者の負担は「属性ごとの重み × 移動距離」で表し,最大避難労力を最小化することを研究目的とする。
また,ここでは,仮定として以下の 3 つを定める。

  • 最大避難距離に,各属性の重みをかけることで「最大避難労力」とする
  • 事前に避難場所の候補地を複数定め,その中から設置する避難場所を選択する
  • 避難者は個人単位ではなく,複数名のグループ単位で避難場所を設定する

4 数理最適化モデルの定式化

4.1 集合と定数

  • I:避難場所候補地集合
  • J:避難グループ集合
  • K:属性集合(一般・親子・高齢者・拡大家族)
  • pjk:グループ j の属性 k の人数
  • dij:候補地 i とグループ j の距離
  • Ci:避難場所 i の収容人数上限
  • D:避難可能な最大距離
  • q:設置可能な避難場所数の上限
  • mk:属性 k の重み(一般 = 1.0,親子 = 1.6,高齢者 = 1.8,拡大家族 = 2.0)

4.2 変数

  • xi ∈ {0, 1}:避難場所 i を設置するか
  • zijk ∈ {0, 1}:グループ j の属性 k が避難場所 i に割り当てられるか
  • yijk ∈ [0, 1]:グループ j の属性 k が避難場所 i に割り当てられる割合
  • t:最大避難労力

4.3 定式化

minimize t (1)
subject to ∑iI xiq (2)
iI yijk = 1,∀jJ, ∀kK (3)
yijkzijk,∀iI, ∀jJ, ∀kK (4)
zijkxi,∀iI, ∀jJ, ∀kK (5)
dijzijkD,∀iI, ∀jJ, ∀kK (6)
jJkK yijkpjkCi,∀iI (7)
mkdijzijkt,∀iI, ∀jJ, ∀kK (8)
xi ∈ {0, 1}, zijk ∈ {0, 1}, yijk ∈ [0, 1],∀i, j, k (9)

式 (1) は目的関数であり,本モデルでは,避難に要する最大の労力を表す変数 t を最小化することを目的としている。
ここで避難労力は,避難距離に属性ごとの重みを掛け合わせた値として定義されており,本目的関数は,
すべての避難者の中で最も大きな避難負担をできるだけ小さく抑える配置を求めることを意味している。
式 (2) は避難場所設置数制約である。設置する避難場所の総数が,あらかじめ定められた上限 q を超えないことを保証するものである。
これにより,避難場所の設置数に関する現実的な制約をモデルに反映している。
式 (3) は避難者割当に関する制約である。この制約は,すべての避難グループ j に属する各属性 k の避難者が,
いずれかの避難場所(または複数の避難場所)に合計で 100% 割り当てられることを表している。
本モデルでは yijk を連続変数とすることで,1 つのグループが複数の避難場所に分散して避難することを許容している。
式 (4) は割当と利用フラグの連動制約である。避難場所 i への割当割合 yijk が正の値を持つ場合,
利用フラグ zijk は必ず 1 とならなければならない。これにより,少しでも避難者が向かう場所は「利用する」とみなされる。
式 (5) は設置されていない避難場所の利用を禁止する制約である。この制約により,避難場所 i が設置されていない(xi = 0)場合には,
その避難場所を利用可能とすること自体ができない(zijk = 0)ことが保証される。
式 (6) は避難距離制約である。この制約は,避難グループ j が避難場所 i を利用する場合(zijk = 1),
その距離 dij が避難可能な最大距離 D 以下でなければならないことを表している。これにより,現実的に到達不可能な避難先への割当が排除される。
式 (7) は避難場所収容人数制約である。この制約は,避難場所 i に割り当てられる避難者の総数が,
その避難場所の収容可能人数 Ci を超えないことを保証するものである。
式 (8) は最大避難労力制約である。避難場所 i を利用する場合(zijk = 1),その避難労力 mkdijt 以下であることを要求する。
これにより,t は実際に利用される経路の中での最大労力値となる。

5 数値実験

5.1 人工データ

はじめに,提案手法の妥当性を確かめるためにランダムに生成した人工データで実験を行った。
避難場所候補地は 15 地点,避難者グループは 10 グループに設定した。
また,最大避難可能距離は D = 30 とし,属性は 3 つ用意して重みはそれぞれ(attr1)= 1.0,(attr2)= 1.25,(attr3)= 1.5 と設定した。
図 1 は生成した人工データにおける避難者グループと避難場所候補地の配置である。

人工データにおける避難者グループと避難場所候補地の配置

図1:人工データにおける避難者グループと避難場所候補地の配置

避難場所の設置可能数上限 q を 5 に設定した場合と 6 に設定した場合の結果が以下の図である。

人工データにおける設置可能数上限5の場合の結果

図2:人工データにおける設置可能数上限 5 の場合の結果

人工データにおける設置可能数上限6の場合の結果

図3:人工データにおける設置可能数上限 6 の場合の結果

図 2 を見ると,図の右上に位置する避難者グループにおいて,重みを小さく設定した属性はやや遠方の避難場所に,
一方で重みを大きく設定した属性は比較的近い避難場所に割り当てられていることが確認できる。
これは,本モデルが最大避難労力を抑えることを目的としているため,避難負担の大きくなりやすい属性を優先的に近距離の避難場所へ割り当てた結果である。
また,図 2 と図 3 を比較すると,設置可能な避難場所数を 1 つ増やしたことで,右下に新たな避難場所が開設され,
より短い距離で避難できるグループが生じたことがわかる。このことから,避難場所数の増加が最大避難労力の改善に寄与することが確認された。

一方で,本モデルでは目的関数として最大避難労力のみを考慮しているため,近くに利用可能な避難場所が存在する場合であっても,
最大値に影響しない避難者については,必ずしも最短距離の避難場所に割り当てられない場合がある。
このような挙動は,最大値最小化モデルに特有の性質によるものである。

5.2 実データ

続いて,実データを用いた実験結果について報告を行う。
本研究では,千葉県銚子市の人口データとして,総務省統計局が実施した令和 2 年国勢調査の町字別人口集計データを使用した。
具体的には 1 つの町字を 1 避難者グループとして捉え,各町字における親子,高齢者,拡大家族,一般の世帯数を調査した。
また,避難場所候補地の位置情報(緯度・経度)を用い,各避難者グループと避難場所候補地の距離は緯度経度を用いたハバーサイン距離で定義した。

避難者グループと避難場所候補地の配置

図4:避難者グループと避難場所候補地の配置

以下の設定で実験を行う。

  • 避難場所候補地数 q = 10
  • 最大避難可能距離 D = 3.0 km
  • 属性重み:(一般)=1.0,(親子)=1.6,(高齢者)=1.8,(拡大家族)=2.0

実データにおける実験結果

図5:実データにおける実験結果

実験の結果,猿田町や野尻町などの一部の町字では 500m 以内で避難可能であった一方,高田町では約 2.7km 先の避難場所に割り当てられるなど,
町字間で避難距離に大きな偏りが生じた。しかし,高田町においても,重みを最も大きく設定した拡大家族については約 1.2km 先の避難場所に割り当てられており,
属性ごとの重み付けによって,避難時により大きな負担を受けると考えられる属性を優先的に近距離へ配置できていることが確認された。
これにより,属性の重みを上手く調整することで各属性の特性に合わせた割り当てが可能であることが示唆された。

一方で,最大避難労力のみを最小化する本モデルでは,最悪ケースの改善には有効であるものの,全体としての避難距離のばらつき,
平均的な避難負担までは考慮されない。そのため,最大避難労力に加えて平均避難労力を目的関数に含めるなどの工夫を行うことで,
より公平な割り当てが可能になると考えられる。

また,避難者グループと避難場所候補地の配置を見ると明らかなように,市内西側ではそもそも候補地とした避難場所が少ないために
遠い避難場所への配置が必然となってしまっている町字があることから,さらに候補場所を追加する必要があると考える。

6 結論

今回は親子や高齢者などの属性による避難労力の違いを考慮したモデルを構築することを目的に,
数理最適化モデルの定式化を行い,人工データおよび千葉県銚子市の実データを用いた数値実験を行った。
本モデルにより,属性の重みや避難場所との距離を考慮した避難場所割り当てが可能になった。
一方で,最大避難労力のみを考慮したことにより,より近くに避難可能な場所があるにも関わらず遠くに割り当てられてしまうケースが生じるなどといった
複数の課題も明らかになったため,今後の課題として以下が挙げられる。

  • 目的関数において最大避難労力のみではなく,平均避難労力なども考慮することで,より近い施設への割り当てを可能にする
  • 実データにおける実験での避難場所候補地追加によるより現実的な配置案の検討
  • 今回はハバーサイン距離を用いたが,実際の道路ネットワークを用いた「実距離」モデルへ拡張することでより現実的な条件を考慮する

また,本研究では属性ごとに重みを設定することで,避難時の身体的・心理的負担の違いをモデルに反映したが,
属性を過度に細分化することは,実際の避難時に混乱を招く可能性もある。さらに,重みの設定次第では,一部の住民に不公平感を与える可能性も否定できない。
そのため,重みの設定については,数理的妥当性だけでなく社会的受容性の観点からも慎重に検討する必要があると考える。

参考文献

[1] 田中健一,数理最適化入門 (4):施設配置の数理モデル(チュートリアル).応用数理(日本数理学会),2013,23.4: 178-183.

[2] 総務省統計局, 『令和 2 年国勢調査 小地域集計(千葉県銚子市)』,
https://www.e-stat.go.jp/
(最終閲覧日:2025 年 10 月)

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