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お知らせ
(株)忘我/42Tokyoの矢追良太氏と筑波大学人文社会系の土井裕人氏を講師に迎え、2025年10月14日(火)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「イノベーションとエキスパート」第一回「教育から・・へ」を開催しました。
矢追良太((株)忘我/42Tokyo)
「PBLとピア・ラーニングが生み出す次世代エンジニア養成機関」
IT分野を中心に高度な技術人材の需要が高まるなか、従来型教育では育成しきれない「潜在的に優れた人材」を支援する新たな学びの仕組みが求められている。本レクチャーでは、フランス発のエンジニア養成機関「42(フォーティーツー)」の教育モデルを採用する42Tokyoの取り組みを中心に紹介された。
42は、学費無料・経歴不問・24時間利用可能な環境という条件を徹底し、経済的格差や旧来の教育方法に起因する機会不平等を克服しようとしている。世界32カ国で展開され、東京でもパリ本校と同水準のカリキュラムを提供している点に特徴がある。また、学生は18〜60代まで幅広い。
学習は講義から始まらず、課題解決型学習(PBL)と学生同士の相互支援(ピアラーニング)を基盤とする。自ら調べ、仲間と協働し、コードレビューを通じて理解を深める学習プロセスは、実務のエンジニアリング現場に近いものである。入学選抜試験「Piscine」もこの姿勢を評価するものであり、4週間の集中試験「Piscine」では、説明なしの課題に挑み続ける適性を確認する。
カリキュラムでは、C言語を中心としたコンピュータサイエンス基礎から始まり、アルゴリズム、ネットワーク、並列処理、OS理解、Dockerなどモダン環境まで段階的に習得する。学習量は2,000〜3,000時間におよび、最終的にはセキュリティや機械学習など専門分野にも進む。仕様書に基づく実装や大規模プロジェクトが多く、また学費無料を支えるパートナー企業とのPBLなど、実践能力を重視する点が際立つ。
卒業後は外資系企業や国内大手への就職、起業、異業種での技術活用など多様な進路が開かれている。進路支援は強制せず、学生の主体的選択を尊重している。
42の教育方針は「誰にでも開かれた教育」「実践力を鍛える教育」「未来につながる教育」の三本柱で構成される。意欲あるすべての人に機会を提供し、社会価値を創造できるIT人材を育てることを目指す。本講演は、次世代教育の可能性と人材育成の新しい在り方について、多くの示唆を与えるものであった。
*矢追氏も本セミナーの様子を記事としてまとめてくださいました:
「【筑波大学登壇レポート】AI時代を生き抜くエキスパート人材の育て方 -筑波大学と42 Tokyoそれぞれのアプローチ」
土井裕人(人文社会系)
「チュートリアルからエキスパート養成へ」
気候変動や社会課題が複雑化するなか、学際的な知と人材育成の重要性が増している。本レクチャーでは、人文社会系の視点から、大学初年次を対象とする少人数・対話型の「学問探究チュートリアル」の狙いと運用、ならびにその教育的効果について、紹介された。
本取り組みは、学問の成果ではなく、思考の仕方に主眼を置き、学生の内発的動機に根ざした問いの形成を支援する点に特色がある。全体ワークショップと個別チュートリアルを組み合わせ、学生2名と教員2名の対話を核に、学修プランという可視化されたプロダクトを継続的に更新していく。秋学期にはデザイン思考のダブルダイヤモンドのフレームを活用し、要素の分解と再統合を通じて、自身の学修計画を精緻化していく。
チュートリアル学修では、学内のタスクフォースと各学群からの教員約40名で構成し、運営している。対話する教員2名は、その学生の所属学類に近い分野と遠い分野の組み合わせで配置し、専門の枠を越える視野の獲得を促す。初年次にいきなり専門対話を求めないよう、導入段階では自己理解や表現の基礎を形成するワークを重点化している。
まだ、始まって2年目であるが、チュートリアル学修を行っていく中で、ワークショップ後半から個別対話に学生が進むにつれ、学生の姿勢や表情に「目の色が変わる」顕著な変化が生じているように感じる。自己効力感の回復や「もつれた課題が解ける」体験が契機となり、学修を自分事として舵取りする感覚が生まれているのではないかと考えている。学生同士の相互支援も自然発生し、学びが連鎖する様子もある。
一方で、まだ始まったばかりであるが、教員工数が大きい点が課題であり、属人性を抑えてスケールアウトさせる方法を考えていかなければならないと感じている。
本チュートリアル学修は、教員と学生が共同で問いを磨き、学問の精神を体得するための基盤であると感じている。継続的な仕組み化と規模拡大を進めることで、チュートリアル学修を多くの学生に経験してもらい、学際的知の創出と自律的に未来を切り開くエキスパート人材へと繋がれば、うれしい。
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