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2024 12.05 18:00

異分野融合/連携ゼミナール 2024年度④「感性と思考」開催レポート

2024年12月5日(木)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「感性と思考」を開催しました。筑波大学図書館情報メディア系の真栄城哲也氏と、法政大学の堤瑛美子氏を講師に迎え、文化・教育とデータ・AIの関係について、それぞれ異なる視点から講演いただきました。

人間の感性とAI
真栄城哲也(筑波大学 図書館情報メディア系)

真栄城哲也氏からは、自身のこれまでの研究の考え方と、人間の感性をAIで扱う研究についてお話しいただきました。

このような講演といえば、通常は研究成果や論文ということになるが、論文というのは、実際の研究過程にかかわらず、つじつまが合うように論理展開をしている。今日は、学生時代や今の研究の過程について、普通の学会では話せないようなことを話そうと思う。院生期は進化を主題に、計算機オートマトンで変異率と適応の関係をシミュレーションし、次に「評価値の最小化」に基づく数理モデルを構築し、国際会議で発表した。さらに蛍光ペプチドを大腸菌で人工進化させ多色化を狙う実験に挑むも失敗し、応用の目論見は崩れた。原点に立ち返り、環境の安定/変動に応じて「親に似せる現状維持」と「親と違う変化」を両立させる設計が遺伝コードに埋め込まれていると考えて解析を進め、その結果は学術誌掲載という形に結実した。初期の課題は重要度は中程度、数理モデルは基礎的なものであったが、実験は失敗したが最後に遺伝コードの理論が実を結ぶ――この揺らぎが現実である。論文には書かないが、道筋は直線ではなく、分岐と回帰が重なるぐちゃぐちゃの構造である。研究とは知的冒険である、というWhiteheadの言葉がある。一番大事なのはinspiration、元の発想である。研究ではアイデアが一番重要であり、それを何らかの方法で形にするのが研究である。評論するだけの人たちもいるが、それにはなんの価値もない。

現在は、人間の感性をAIで扱う研究を行っている。対象は漫才やショートトークの面白さと、TED講演のスタンディングオベーションの有無の判定である。漫才ではM-1グランプリ準々決勝の公開動画から特徴を抽出し、ディープラーニングで評価モデルを作成、決勝の順位を予測した。単に文字列を学習させるのではなく、台本上の笑いどころ、発話速度、最長発話、発話間の「間」の配分など、客観的に測れる少数の特徴量に絞ることで制度を向上させた。TEDも同様に原稿から設計した特徴で予測し、少数データでも精度を得た。感性は人により異なるが、評価・印象に対する影響の度合い(貢献度)は、定量的80%・感性20%と、感性の影響はほんのわずかだと感じる。つまり、作用する要因の多くは定量化できると考える。重要なのは、先に仮説を立て、何が効くかを明示し、理解可能な特徴量で作ることである。そうしてこそ、面白さの設計改善に還元することができる。

教育分野におけるAIの活用
堤瑛美子(法政大学)

学生時代から、一貫してe-ラーニングシステムのための人工知能技術について研究してきた。背景として、2020年の教育改革を踏まえ、学びに向かう力・知識技能・思考判断表現の三本柱を成長期に確立する必要がある。個々の差に応じた支援のため、回答データを機械学習で分析し、能力・問題難易度を推定、正答確率0.5~0.6の課題を推薦するアダプティブラーニングとナレッジトレーシングの活用を提案する。経験依存の教室運営には限界があり、個別最適化が急務となっている。ハード面ではコロナ禍でeラーニングが普及し実装環境は整ってきている。

教育×AI研究は、学習履歴等を分析し能力や難易度を推定する基礎研究と、その知見をeラーニングに実装する応用研究に分かれるが、その両者の間を担い、単なる予測でなく、なぜそう判断できるかを説明可能にすることを重視してきた。コロナ禍で大量化した教育データにより深層学習の精度は向上したが、解釈性とのトレードオフが課題となっている。従来の確率モデル(IRT)は解釈性に優れる一方で、系列を扱う深層学習は予測精度で優位になる。だが保護者や現場に説明できなければ実装できない。そこでIRTとディープラーニングを統合した手法を提案し、個別最適化に資するモデル化を目指した。

古典的IRTは、正誤データから潜在能力と問題難易度を推定し、正解を算出する解釈性の高い確率モデルである。しかし、局所独立や能力分布の仮定が現実と乖離していた。そこで、能力・難易度を別々で推定しつつ、最終式は元の枠組みを保つDeep IRTへ拡張した。さらに能力を多次元・時系列にし、忘却をモデルに織り込み直近データを重視して予測と解釈性を両立させた。

成果として、提案手法では次問題の正答予測で最新のTransformer系AKTや従来の自作モデルを上回り、実験結果で優位性を確認できた。正解で能力が上がり、不正解で下がるという直感的な軌跡を多次元スキルで可視化した。黒丸/白丸の時系列履歴とも整合し、スキル間の関連も学習して誤答が関連分野の能力低下として伝播している。精度と解釈性を両立し、個別最適化eラーニングに適用可能で、教師や学習者への説明可能性も担保した。

文責:浦田淳司

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