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2024 11.14 18:00

異分野融合/連携ゼミナール 2024年度③「人体と活動」開催レポート

2024年11月14日(木)にMDA異分野融合/連携ゼミナール第3回「人体と活動」を開催しました。日本総合研究所の西下慧氏と、筑波大学体育系の松井崇氏を講師に迎え、ブレインテックの可能性とスポーツを通じた健幸社会の実現について、ご講演いただきました。

ブレインテックの概説と脳の可能性
西下慧(日本総合研究所)

民間企業の研究の特徴の1つ目は、会社方針や技術の成熟度に応じてテーマを柔軟に切り替える必要がある。ガートナーのハイプサイクルで言えば黎明期〜幻滅期の先端技術を対象とすることが多く、成熟や失速した技術は対象から外れることになる。2つ目の違いは成果公開に非公開・特許・有料などの選択肢があることである。ビジネス/社会への波及を目的に無償公開することもある。民間企業の研究者に求められる姿勢は①ビジネス感覚の涵養と現場理解、②非IT層にも届く平易な説明、③主体性、④特定の立場に偏らない中立性である。役立たない結論も成果として扱う姿勢も大切で、技術単体でなく金融動向の継続的収集やカンファレンス参加、現場見学、事業担当者との密な対話などで「使われる技術」へ橋渡しすることが必要になる。

ブレインテックは脳(Brain)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、脳科学や工学の知見・技術を融合して開発されたシステムや製品・サービスを指す。脳内デバイスの信号を計測し運動意図を推定し、操作対象のゲーム機などへコマンド送信することができる。脳活動の計測方法は、侵襲型と非侵襲型に大別される。一般に取得できる信号の精度と安全性はトレードオフで、安全かつ高精度な計測方法・装置は未確立である。脳と機械を直接結び付けるブレイン・マシン・インターフェースでは、体が不自由な方の運動支援などの分野で臨床試験が進むなど、社会的な注目度が高い。また、日本国内でも脳活動パタンから意識や知覚を推定するニューロデコーディングを自社製品の評価に利用している企業が複数存在する。外部から脳を刺激する技術としては、脳活動の計測結果を映像や音など五感を通じて本人に伝えるニューロフィードバックや、電磁気による刺激を通じて脳機能を変化させるニューロモジレーションがある。

最近では、コンピュータ開発に脳の仕組みの模倣を取り入れたニューロモルフィックの研究開発が進んでおり、AIが少ないデータで効率よく学習するうえで、人の脳の仕組みを参考にしたアルゴリズムが今後登場する可能性がある。しかし課題も多く存在し、技術面ではデータ収集の難しさ、セキュリティ、個人間の差による再現性の壁がある。ガバナンス面でも責任の所在や倫理、安全性の問題があり、社会実装には時間を要する。

脳疲労を防ぎ、活力と絆を育む スポーツ神経生物学
松井崇(筑波大学 体育系)

運動とスポーツの違いを考えてみると、運動は単に体を動かすことであるのに対して、スポーツは原則2人以上で対戦することが多いことにある。スポーツ対戦・観戦を通じた絆ホルモンの分泌などにより、健康リスクの最上位である孤独に対する解毒になりうる。孤独が社会問題として深刻化するなか、新たなスポーツの形態であるeスポーツや、サイバー空間のコミュニケーションによる絆形成は可能なのか、対面でのコミュニケーションとSNSによるコミュニケーションの違いは何なのか、といった疑問を背景としながら発展している学問が、スポーツ科学である。健康の三大原則である運動・栄養・休養に絆を加えた四大原則を考えることで、スポーツが持つ効果を最大限に引き出すことができると考えている。

柔道などのスポーツや、対戦型のeスポーツでは、相手と向き合うことで心拍の同調やオキシトシン分泌が起こり、非言語的な身体性コミュニケーションが絆をインクルージョンを生む。eスポーツに関する実験では、一人プレイは心拍変化が乏しい一方、対面対戦では試合展開に応じ心拍が同期し、勝敗に関係なくオキシトシンが上昇した。オンラインでは同調・分泌が弱まりがちだが、相手の心拍を機械を通して共有する“バイオシェア”の技術で対面並みの効果を得ることを目指している。高齢者でも対面eスポーツで笑顔や前向きな姿勢が増え、運動と組み合わせた3か月間の介入実験では脳トレ単独よりも認知機能が向上した。試合会場でのスポーツ観戦でも選手との同調が面白さを、観客同士の同調が帰属意識を高め、外出・再来訪を促す好循環が期待できる。専門性が低くても同調は成立し、eスポーツ観戦でも同様の効果が見込まれる。オンラインの弱点を補う技術として、観戦時に選手の心拍を感じたり、家族の運動会で子どもの鼓動を共有したりといった応用も目指したい。これらを心拍同調などの一体感指標(心拍同調など)で評価し、運動・栄養・休養・絆の四要素を可視化・強化するとでeスポーツ×運動の社会実装を進めていきたい。

文責:浦田淳司

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