パートナー情報
茨城県内神事運営者、茨城新聞社、茨城県神社庁
研究者情報
大平航己(指導教員:谷口守)
茨城県は首都圏外縁部に位置し県北部は山林が多い一方で、県南部では鉄道沿線上で開発が進んでいる。これらのように幅広い地域特性を有しているため、対象地域として選定した。
本研究では、平成元年(1989 年)、茨城県神社庁編集、茨城新聞社発行著書「茨城の神事」2)(図 1)に掲載されている神事を調査対象とする。
著書内に記載されている 155 事例の中で、既に消滅した神事として紹介されている神事を除く 145 事例を分析対象とする。著書内の神事は、茨城県神社庁が 1986 年に県内の 2464 社に神事に関するアンケート調査を行い、回答のあった中で類似または重複を避けて選定しており、幅広い神事を網羅している。
著書内には、1988 年に各神社の宮司が執筆した内容が示されており、当時の神事の内容、実施日、神事実施中の写真が掲載されている。
まず 30 年前の神事が継承されているのか、廃止しているのかについて文献等を用いて把握する。
神事の実態を判断する過程としては、初めに各神社のホームページ(以下、HP と略す)の存在を把握し、神社 HP 内における対象神事の記載有無を調査する。
次に、各自治体が運営する HP(移住定住促進サイトや観光協会 HP 等、自治体が運営に関与していることが確認できる HP を含む)より対象神事の記載有無の把握を行う。なお、2021年 7 月 12 日時点で記載のある神事を継承と判断しており、COVID-19 の影響で中止しているものについても COVID-19 流行以前まで継承されているとし、継承と判断する。
そして最後に,茨城県教育委員会より発行されている文献 3)より対象神事が掲載されているか把握を行う。
プロセスより調査した結果、145 事例中 115 事例(79.3%)において HP 及び文献より継承されていることを確認することができた。以下、本研究では確認できた神事を「継承」、確認できなかった神事を「廃止」と定義する。把握した継承・廃止実態の分布を図 -2に示す。
神事が開催される神社については現地調査及び Google mapより把握したところ廃止事例も含めてすべての神社において存在が確認できた。図 -2 より廃止している神事は県全域に点在していることが分かる。また、継承されている神事と廃止された神事が混在している神社がみられ、神事の特性による影響から廃止されてしまう神事も存在することが考察できる。
把握した神事の実態を踏まえ、その要因を把握していく。そのために、神事の存続・廃止実態を目的変数、存続・廃止要因となることが考えられる外部観察可能な変数を説明変数として判別分析を行う。
具体的には、神事の内容(神事の種類)、神社の等級(旧社格)、神社周辺の地域特性(都市計画区域、人口、交通)に関する変数を収集した。
結果を図-3に示す。
ヒアリング調査を実施し継承・廃止要因の定性的な把握を行う。定量的分析からは明らかにできなかった神事の担い手の実態や継承・廃止過程と変化要因について個別事例から把握を行う。
ヒアリング対象地を図-5に示す。
ヒアリング調査結果より、明らかとなった継承方法を図-5、図-6に示す。
本研究から、神事の実態と変化要因、そしてさまざまな継承方法が明らかとなった。これまで人口減少地域の神事を中心とした政策がすすめられてきたが、実は神事の廃止の要因としては、神社の等級や神事の種類、神社が立地する土地利用といったものが大きい、今後も続くことが予想される人口減少社会の中で、無格社神社における日常的な神社の活用や、無秩序な宅地開発の抑制といった対応可能な策を実施していくことが神事の継承へつながると考える。
一方で、時代変化の中ですべての神事を継承していくことは困難であることが明らかとなった。しかし、一度中断されてしまっても本研究で扱った復活事例のように、地域活性化という新たな目的で時代を超えて活用されている神事も存在している。担い手や住民の合意の上での神事廃止に対して否定的に捉える必要はないが、神事廃止がその他の地域活動についても影響を及ぼしている可能性を考慮すると、目的の転換による新たな活用や新たな神事による異なる形での役割の代替といった可能性を検討していくことが必要であると筆者は考える。
1)文化庁:令和3年度補正予算関係資料,https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/pdf/2021122001_02.pdf,最終閲覧2023/3/28
2)茨城新聞社発行,茨城県神社庁編:茨城の神事,1989
3)茨城県教育委員会,茨城県教育庁文化課編集: 茨城県の祭り・行事~茨城県祭り・行事調査報告書~,2010
この記事は、下記の論文を要約したものです。
大平航己 (2022) 時代変化を踏まえた地域における神事の実態と変化要因 -茨城県を対象とした「継廃復起」の観点から-、 2022年度 筑波大学 大学院 博士課程 理工情報生命学術院システム 情報工学研究群 修士論文