【高大連携・鹿島1】 鹿島高等学校における避難所世帯配置最適化モデルの検討

研究者情報

筑波大学 TA 齋藤郁馬 吉田響 長沢繁宗

はじめに

大規模災害が発生した際,多くの住民が学校体育館などを避難場所として利用する。しかし,限られた空間
に多くの避難者が滞在することで,騒音やプライバシーの不足,動線の混雑など,様々なストレス要因が生じ
ることが指摘されている。
本報告では,鹿島高等学校の体育館を対象に,避難者の属性と避難所空間の特徴を数理最適化モデルとして
表現し,心理的・物理的ストレスの総和を最小化するような世帯配置の在り方を検討した結果をまとめる。

研究背景と目的

避難所では,次のようなストレスが生じやすい。
• 騒音:子どもの声,他世帯の生活音,共用エリアの物音等
• プライバシー:男女・家族構成・年齢層による空間ニーズの違い
• 快適さ・アクセス性:出入口やトイレへの距離,バリアフリー性,スペースの広さ等
本研究の目的は,これらの要素を考慮しつつ,
「避難所における世帯配置を最適化することで,避難者のストレスを可能な限り小さくする」
ためのモデルを構築し,その有効性を数値的に確認することである。

現地ヒアリングの概要

2024 年 10 月 20 日に,鹿嶋市役所交通防災課の職員にヒアリングを実施し,鹿島高等学校が避難場所として利用される際の運用実態や地域特性について情報収集を行った。

鹿嶋市・鹿島高等学校の特徴

ヒアリングから得られた主な知見は以下のとおりである。
• 子育て世帯が多い地域である。
• 高齢者は単身避難が多い傾向がある。
• 子育て世帯は,在宅避難を選択する世帯も一定数存在する。
• 鹿島高等学校は「避難所」ではなく「避難場所」(短期滞在)扱いである。
• 市職員が交代で常駐し,体調不良者用のスペースを別途確保している。
これらの情報を踏まえ,現実的な世帯構成比・利用想定を設定したうえで数理モデルを構築した。

問題設定

本研究では,鹿島高等学校の体育館を対象として,次のように抽象化・モデル化した。

  • 体育館を縦 18 マス × 横 10 マスの格子状グリッドとして表現する。
  • 1 マスを 1 人分の占有スペースとみなし,グリッド上に避難者を配置する。
  • 各世帯は,以下の属性のいずれかに属するものとする。
    • 子あり世帯
    • 子なし世帯
    • 単身女性
    • 単身男性
    • 高齢者世帯
    • 乳幼児世帯
    • その他(中学生・高校生等を含む)

また,体育館には上部出入口と下部出入口,およびステージ上のキッズスペースが存在すると仮定し,それ
ぞれへの距離を快適性の指標として評価する。

数理モデルの定式化

集合・パラメータ

  • グリッド(マス)の集合行方向インデックスを I = {1, …, 18},列方向インデックスを J = {1, …, 10} とし,
    マス (i, j) を iI, jJ で表す。
  • 世帯集合 H,各世帯 hH に属する避難者の集合を Ph とする。
    全ての避難者の集合を P = ∪h∈H Ph とする。
  • 各世帯 h の属性(タイプ)を a(h) ∈ A で表す。属性集合 A

A = {CH, INF, EL, SF, SM, OT}

とし,それぞれ「子あり世帯(CH)」「乳幼児世帯(INF)」「高齢者世帯(EL)」「単身女性(SF)」「単身男性(SM)」「その他(OT)」を表す。

  • 属性ごとの代表的なペナルティ係数:
    • clochij:世帯 h の代表マスを (i, j) に置いたときの位置に起因するストレス
      (出入口までの距離や体育館の上下位置などを反映)。
    • 単身男性-単身女性の近接ペナルティ係数 αMF > 0
    • 乳幼児世帯-単身男性の近接ペナルティ係数 αIM > 0
  • 代表マス同士が「近い」とみなされるマスの組の集合を

N = {((i, j), (k, ℓ)) | |ik| + |j − ℓ| ≤ 1}

のように定める(ここでは上下左右に隣接するマスを「近接」とみなす)。

  • 世帯属性ごとの部分集合

HSF = {hH | a(h) = SF},
HSM = {hH | a(h) = SM},
HINF = {hH | a(h) = INF}.

  • マス (i, j) の「代表マス」としての近傍(そのマス自身+上下左右)を

N+(i, j) = {(i, j)} ∪ {(i ± 1, j), (i, j ± 1) の範囲内のもの}

とおく。

意思決定変数

  • 避難者の配置変数

x
pij

=
{

1

(避難者
p∈P
をマス (i,j) に配置する場合)

0
(それ以外)

  • 世帯の代表マス変数

y
hij

=
{

1

(世帯
h∈H
の代表マスを (i,j) にとる場合)

0
(それ以外)

  • 単身女性世帯 hHSF と単身男性世帯 h‘ ∈ HSM が近接しているかどうかを表す補助変数

uMFhh’ ≥ 0

  • 乳幼児世帯 hHINF と単身男性世帯 h‘ ∈ HSM が近接しているかどうかを表す補助変数

uIMhh’ ≥ 0

xpijyhij は 0-1 変数,uMFhh’uIMhh’ は連続変数(目的関数で最小化されるので,最適解では 0-1 に一致する)とする。

目的関数

min Z = ∑hHiIjJ clochij yhij+ αMFhHSFh‘∈HSMuMFhh’+ αIMhHINFh‘∈HSM uIMhh’ (1)

第 1 項は,属性ごとの望ましいエリアからのずれ等を通じた位置ストレス,第 2 項は単身男性-単身女性間の近接ストレス,第 3 項は乳幼児世帯-単身男性間の近接ストレスを表している。

制約条件

(1) 各避難者は 1 つのマスにのみ配置される

iIjJxpij = 1(∀pP). (2)

(2) 各マスには高々 1 人しか入れない

pPxpij ≤ 1(∀iI, ∀jJ). (3)

(3) 各世帯はちょうど 1 つの代表マスを持つ

iIjJyhij = 1(∀hH). (4)

(4) 代表マスには,その世帯の誰かが必ず配置される

pPhxpijyhij(∀hH, ∀iI, ∀jJ). (5)

(5) 世帯メンバーは代表マスの近傍にのみ配置される 世帯 h のメンバー pPh がマス (i, j) にいるとき,
そのマスは世帯 h の代表マスまたはその上下左右のいずれかでなければならない。これを次のように表す:

xpij ≤ ∑(k, ℓ)∈N+(i, j)yhkℓ
(∀hH, ∀pPh, ∀iI, ∀jJ).
(6)

(6) 単身女性世帯と単身男性世帯の近接ペナルティの線形化 単身女性世帯 hHSF と単身男性世帯 h‘∈HSM の代表マスが
「近い」マスの組 ((i, j), (k, ℓ))∈N に配置されている場合,補助変数 uMFhh’ が 1 以上となるように次の制約を課す:

uMFhh’yhij + yh’kℓ − 1(∀hHSF, ∀h‘∈HSM, ∀((i, j), (k, ℓ))∈N). (7)

目的関数 (1) で uMFhh’ を最小化することで,代表マス同士が近接しない配置が好まれる。

(7) 乳幼児世帯と単身男性世帯の近接ペナルティの線形化 同様に,乳幼児世帯 hHINF と単身男性世帯 h‘∈HSM について,

uIMhh’yhij + yh’kℓ − 1(∀hHINF, ∀h‘∈HSM, ∀((i, j), (k, ℓ))∈N). (8)

とおき,目的関数で uIMhh’ を最小化することで,乳幼児世帯と単身男性世帯が近接しないような配置が選ばれる。

(8) 変数の領域制約

xpij ∈ {0, 1}(∀pP, ∀iI, ∀jJ), (9)
yhij ∈ {0, 1}(∀hH, ∀iI, ∀jJ), (10)
uMFhh’ ≥ 0(∀hHSF, ∀h‘∈HSM), (11)
uIMhh’ ≥ 0(∀hHINF, ∀h‘∈HSM). (12)

以上により,本研究で用いた避難所世帯配置問題は 0-1 整数計画問題として定式化される。

数値実験の結果

ケース 1:初期モデル

  • グリッドサイズ:18 × 10
  • 上部出入口:(0, 9),下部出入口:(17, 5)
  • 世帯数:50 世帯
  • 世帯構成比:1 人世帯 40%,2 人世帯 20%,3 人世帯 40%
  • ソルバー:Gurobi
  • 計算時間:約 22 秒

得られた配置結果の特徴は次の通りである。

  • 単身男性・単身女性・一般家庭が広い範囲にはらついて配置される傾向が見られた。
  • 体育館上部に人口が集中し,上部の人口密度が高くなる結果となった。
  • 実行例の中には,乳幼児世帯と単身男性世帯が隣接するケースが確認された。

これらから,密集によるストレスや乳幼児と単身男性の近接回避に関する制約・ペナルティが十分でないことが分かった。

ケース 2:近接ペナルティを強化したモデル

「乳幼児世帯と単身男性世帯の近接」を強く回避するように目的関数および制約を修正し,再度最適化を行った。

  • グリッドサイズ:18 × 10
  • 上部出入口:(0, 9),下部出入口:(17, 5)
  • 世帯数:50 世帯
  • 世帯構成比:1 人世帯 60%,2 人世帯 20%,3 人世帯 20%
  • ソルバー:Gurobi
  • 計算時間:約 5 分

その結果,次のような改善が見られた。

  • 乳幼児世帯と単身男性世帯は十分に離れた位置に配置され,女性や子どもの心理的不安軽減につながる配置となった。
  • 世帯構成比を調整したことにより,体育館上部と下部の人口密度が近い値になり,一部への極端な集中が緩和された。

一方で,単身男性・単身女性と一般家庭とのばらつきは依然として残っており,さらなる工夫の余地があることも確認された。

図1:世帯ごとの色分け

図2:属性ごとの色分け

考察と今後の課題

本研究を通じて,避難者の属性と空間構造を考慮した数理最適化にもとづく避難所レイアウト設計が一定の有効性を持つことが分かった。
特に,乳幼児世帯と単身男性世帯の近接回避や,出入口へのアクセス性など,直感的に「配慮が必要」と考えられる要素を
具体的な制約・評価指標として組み込める点は有用である。
一方で,今後の課題として次の点が挙げられる。

  • 世帯配置の精緻化:
    単身男性・単身女性・一般家庭のばらつきを抑えつつ,過度な密集を避けるための新たなペナルティ設計。
  • 市職員配置との連携:
    力仕事が必要な場面で高齢者側に男性職員を配置する,子どもの相手や保護者とのコミュニケーションが取りやすい女性職員を
    子あり世帯側に配置するなど,人員配置と空間配置を統合したモデルの検討。
  • その他のストレス要因の導入:
    導線の確保,体育館外施設(トイレ・配給所など)との位置関係,時間経過に伴う世帯の移動や混雑状況の変化などを
    モデルに組み込むこと。
  • ステージの活用方法:
    キッズスペース以外の用途(高齢者の静養スペース等)との兼ね合いも含めた再検討。
  • 実運用への展開:
    本モデルをベースに,避難訓練などを通じた検証や,運用マニュアルへの反映可能性を検討すること。

参考文献

[1] 有 恭子,日本における避難所空間の管理・運営に関する研究,2023 年.
[2] Tang, K., & Osaragi, T., “Multi-objective distributionally robust optimization for earthquake shelter planning under demand uncertainties,” GeoHazards, Vol. 5, No. 4, pp. 1308–1325, 2024.
[3] 東京建築士事務所協会,「避難所モデルプラン みんなでつくる安全で安心な避難所」,https://www.taaf.or.jp/hinanjo/(最終閲覧日:2025 年 8 月 2 日).

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