2026 03.01 16:58
研究者情報
筑波大学 TA 齋藤郁馬 吉田響 長沢繁宗
大規模災害が発生した際,多くの住民が学校体育館などを避難場所として利用する。しかし,限られた空間
に多くの避難者が滞在することで,騒音やプライバシーの不足,動線の混雑など,様々なストレス要因が生じ
ることが指摘されている。
本報告では,鹿島高等学校の体育館を対象に,避難者の属性と避難所空間の特徴を数理最適化モデルとして
表現し,心理的・物理的ストレスの総和を最小化するような世帯配置の在り方を検討した結果をまとめる。
避難所では,次のようなストレスが生じやすい。
• 騒音:子どもの声,他世帯の生活音,共用エリアの物音等
• プライバシー:男女・家族構成・年齢層による空間ニーズの違い
• 快適さ・アクセス性:出入口やトイレへの距離,バリアフリー性,スペースの広さ等
本研究の目的は,これらの要素を考慮しつつ,
「避難所における世帯配置を最適化することで,避難者のストレスを可能な限り小さくする」
ためのモデルを構築し,その有効性を数値的に確認することである。
2024 年 10 月 20 日に,鹿嶋市役所交通防災課の職員にヒアリングを実施し,鹿島高等学校が避難場所として利用される際の運用実態や地域特性について情報収集を行った。
ヒアリングから得られた主な知見は以下のとおりである。
• 子育て世帯が多い地域である。
• 高齢者は単身避難が多い傾向がある。
• 子育て世帯は,在宅避難を選択する世帯も一定数存在する。
• 鹿島高等学校は「避難所」ではなく「避難場所」(短期滞在)扱いである。
• 市職員が交代で常駐し,体調不良者用のスペースを別途確保している。
これらの情報を踏まえ,現実的な世帯構成比・利用想定を設定したうえで数理モデルを構築した。
本研究では,鹿島高等学校の体育館を対象として,次のように抽象化・モデル化した。
また,体育館には上部出入口と下部出入口,およびステージ上のキッズスペースが存在すると仮定し,それ
ぞれへの距離を快適性の指標として評価する。
A = {CH, INF, EL, SF, SM, OT}
とし,それぞれ「子あり世帯(CH)」「乳幼児世帯(INF)」「高齢者世帯(EL)」「単身女性(SF)」「単身男性(SM)」「その他(OT)」を表す。
N = {((i, j), (k, ℓ)) | |i − k| + |j − ℓ| ≤ 1}
のように定める(ここでは上下左右に隣接するマスを「近接」とみなす)。
HSF = {h ∈ H | a(h) = SF},
HSM = {h ∈ H | a(h) = SM},
HINF = {h ∈ H | a(h) = INF}.
N+(i, j) = {(i, j)} ∪ {(i ± 1, j), (i, j ± 1) の範囲内のもの}
とおく。
x
pij
=
{
1
(避難者
p∈P
をマス (i,j) に配置する場合)
0
(それ以外)
y
hij
=
{
1
(世帯
h∈H
の代表マスを (i,j) にとる場合)
0
(それ以外)
uMFhh’ ≥ 0
uIMhh’ ≥ 0
xpij と yhij は 0-1 変数,uMFhh’,uIMhh’ は連続変数(目的関数で最小化されるので,最適解では 0-1 に一致する)とする。
| min Z = ∑h∈H ∑i∈I ∑j∈J clochij yhij+ αMF∑h∈HSF∑h‘∈HSMuMFhh’+ αIM ∑h∈HINF ∑h‘∈HSM uIMhh’ | (1) |
第 1 項は,属性ごとの望ましいエリアからのずれ等を通じた位置ストレス,第 2 項は単身男性-単身女性間の近接ストレス,第 3 項は乳幼児世帯-単身男性間の近接ストレスを表している。
(1) 各避難者は 1 つのマスにのみ配置される
| ∑i∈I∑j∈Jxpij = 1(∀p∈P). | (2) |
(2) 各マスには高々 1 人しか入れない
| ∑p∈Pxpij ≤ 1(∀i∈I, ∀j∈J). | (3) |
(3) 各世帯はちょうど 1 つの代表マスを持つ
| ∑i∈I∑j∈Jyhij = 1(∀h∈H). | (4) |
(4) 代表マスには,その世帯の誰かが必ず配置される
| ∑p∈Phxpij ≥ yhij(∀h∈H, ∀i∈I, ∀j∈J). | (5) |
(5) 世帯メンバーは代表マスの近傍にのみ配置される 世帯 h のメンバー p∈Ph がマス (i, j) にいるとき,
そのマスは世帯 h の代表マスまたはその上下左右のいずれかでなければならない。これを次のように表す:
| xpij ≤ ∑(k, ℓ)∈N+(i, j)yhkℓ (∀h∈H, ∀p∈Ph, ∀i∈I, ∀j∈J). |
(6) |
(6) 単身女性世帯と単身男性世帯の近接ペナルティの線形化 単身女性世帯 h∈HSF と単身男性世帯 h‘∈HSM の代表マスが
「近い」マスの組 ((i, j), (k, ℓ))∈N に配置されている場合,補助変数 uMFhh’ が 1 以上となるように次の制約を課す:
| uMFhh’ ≥ yhij + yh’kℓ − 1(∀h∈HSF, ∀h‘∈HSM, ∀((i, j), (k, ℓ))∈N). | (7) |
目的関数 (1) で uMFhh’ を最小化することで,代表マス同士が近接しない配置が好まれる。
(7) 乳幼児世帯と単身男性世帯の近接ペナルティの線形化 同様に,乳幼児世帯 h∈HINF と単身男性世帯 h‘∈HSM について,
| uIMhh’ ≥ yhij + yh’kℓ − 1(∀h∈HINF, ∀h‘∈HSM, ∀((i, j), (k, ℓ))∈N). | (8) |
とおき,目的関数で uIMhh’ を最小化することで,乳幼児世帯と単身男性世帯が近接しないような配置が選ばれる。
(8) 変数の領域制約
| xpij ∈ {0, 1}(∀p∈P, ∀i∈I, ∀j∈J), | (9) |
| yhij ∈ {0, 1}(∀h∈H, ∀i∈I, ∀j∈J), | (10) |
| uMFhh’ ≥ 0(∀h∈HSF, ∀h‘∈HSM), | (11) |
| uIMhh’ ≥ 0(∀h∈HINF, ∀h‘∈HSM). | (12) |
以上により,本研究で用いた避難所世帯配置問題は 0-1 整数計画問題として定式化される。
得られた配置結果の特徴は次の通りである。
これらから,密集によるストレスや乳幼児と単身男性の近接回避に関する制約・ペナルティが十分でないことが分かった。
「乳幼児世帯と単身男性世帯の近接」を強く回避するように目的関数および制約を修正し,再度最適化を行った。
その結果,次のような改善が見られた。
一方で,単身男性・単身女性と一般家庭とのばらつきは依然として残っており,さらなる工夫の余地があることも確認された。

図1:世帯ごとの色分け

図2:属性ごとの色分け
本研究を通じて,避難者の属性と空間構造を考慮した数理最適化にもとづく避難所レイアウト設計が一定の有効性を持つことが分かった。
特に,乳幼児世帯と単身男性世帯の近接回避や,出入口へのアクセス性など,直感的に「配慮が必要」と考えられる要素を
具体的な制約・評価指標として組み込める点は有用である。
一方で,今後の課題として次の点が挙げられる。
[1] 有 恭子,日本における避難所空間の管理・運営に関する研究,2023 年.
[2] Tang, K., & Osaragi, T., “Multi-objective distributionally robust optimization for earthquake shelter planning under demand uncertainties,” GeoHazards, Vol. 5, No. 4, pp. 1308–1325, 2024.
[3] 東京建築士事務所協会,「避難所モデルプラン みんなでつくる安全で安心な避難所」,https://www.taaf.or.jp/hinanjo/(最終閲覧日:2025 年 8 月 2 日).