【高大連携・豊島岡6】 ドクターカーの配置を決めて患者に医師の接触するまでの時間を最⼩化する

研究者情報

豊島岡⼥⼦学園6班 幾野紗也⾹ 藤本理奈 濵﨑千佳 筑波⼤学TA ⽮中祥吾 猪熊征⼈ 浅⽥悠希

1 はじめに

救急医療において,重症患者に対する迅速な医療介入は生存率や後遺症の軽減に直結する重要な要素である。
しかし,地域によっては救急車の現場到着までに時間を要し,病院到着前に十分な処置が行えず救命が困難となるケースも存在する。

このような課題に対し,医師が同乗して現場へ向かう「ドクターカー」[1] は,現場での早期医療介入を可能とし,
救命率を高める重要な役割を果たす。しかし,ドクターカーの配置拠点や車両数は限られており,
限られた資源をどこに配置すべきかの判断が医療体制の効率に大きく影響する。

そこで本研究では,患者発生地点への医師の到達時間(応答時間)を最小化する観点から,
ドクターカーの配置最適化問題を数理的に定式化し,合理的な配置を導出することを目的とする。

2 問題設定

2.1 施設配置問題

ドクターカーの配置場所を決定する問題は,「限られた数のサービス拠点(病院)をどこに置くか」という点で,
施設配置問題(Facility Location Problem)[2] と同様の構造を持つ。
一般に施設配置問題では,

  • サービス拠点をどこに設置するか(立地判断)
  • 各需要点をどの拠点が担当するか(割当判断)
  • それらによって生じるコスト(距離・時間)を最小化する

といった最適化を目的とする。

本研究では,

  • 病院を配置候補地(施設候補)
  • 患者発生地点を需要点
  • 病院から患者地点までの移動時間をコストとして扱う

そのうえでドクターカーの期待応答時間(医師が到達するまでの時間)を最小化する配置を求めるという枠組みで定式化する。

これにより,従来研究で蓄積されている施設配置問題の知見(p-median, p-center など)と対応させながら,
ドクターカー配置特有の制約を含んだ現実的なモデル構築が可能となる。

2.2 記法の定義

以下に定式化に使用する集合,パラメータ,決定変数を定義する。

集合

I:ドクターカーを配置できる病院の集合

J:患者発生地点の集合

K:一つの病院に配置するドクターカーの台数の集合

パラメータ

tij:病院 iI から地点 jJ までの移動時間

pj:地点 jJ における患者発生確率

U:配置可能なドクターカー台数

決定変数

xjk ∈ {0,1}:病院 jJ にドクターカーを k 台配置するか否か

yij ∈ {0,1}:病院 iI が地点 jJ を担当するか否か

zijk ∈ {0,1}:補助変数

3 最適化モデル

本研究の目的は,患者発生確率で重み付けした期待応答時間の最小化を目的とする施設配置問題として次のように定式化できる。

制約式

(1)各患者の発生地点は一つの病院に割り当てられる

iI yij = 1 ∀jJ

(2)ドクターカーが配置されていない病院には患者を割り当てない

k xjkyij ∀iI, ∀jJ

(3)配置できるドクターカーの台数には上限がある

kKjJ kxjkB

(4)病院のドクターカーの配置パターンは一通り

kK xjk ≤ 1 ∀jJ

(5)補助変数の制約

zijkxjk,
zijkyij,
zijkxjk + yij − 1

(6)決定変数

xjk ∈ {0,1},
yij ∈ {0,1},
zijk ∈ {0,1}

目的関数:期待応答時間の最小化

min ∑jJiI pjtijzijk

上記の制約式,目的関数を持つ最適化問題を解くことで,患者への期待応答時間を最小化する最適なドクターカー配置案を求めることができる。

4 数値実験

本章では,ドクターカー配置問題の有効性を確認するために,実際の都市構造を参考にした数値実験を行った。

ここでは,患者発生地点・病院位置・移動時間データの作成方法,ならびに最適化モデルへの入力方法について述べる。

4.1 実験対象地域の設定

本研究では,実装を想定している東京都 23 区を対象とした。
23 区は密集した都市構造と多様な交通環境を持つ地域であり,ドクターカーの迅速な運用が特に求められる。
実験では,地域全体を扱う前段階として,

  • 23 区を 8 つのグループに分割し(足立区・北区・荒川区/葛飾区・江戸川区/…),
  • 各グループの代表点(最西端・最東端・最北端・最南端の交点)を患者発生地点の代表点として使用した。

各グループは以下の通りである

  • 足立区、北区、荒川区
  • 葛飾区、江戸川区
  • 台東区、墨田区、江東区、中央区
  • 品川区、大田区
  • 板橋区、練馬区
  • 世田谷区、目黒区
  • 杉並区、中野区
  • 豊島区、文京区、新宿区、千代田区、渋谷区、港区

ドクターカーを配置可能な医療機関として,東京都 23 区内の三次救急病院を候補とした。
各病院の位置情報を取得し,各グループの代表点からの距離 dij[km] を計算した。

病院 iI から地点 jJ までの移動時間 tij は患者発生地点と病院の距離情報をもとに,

tij =

dij
40km/h

と計算した。

地点 jJ における患者発生確率 pj は各グループに含まれる区の人口,救急搬送需要のバランスを考慮するため,
それぞれのグループの合計人口の 23 区の人口に対する割合を使用した。

4.2 実験結果

ドクターカーの配置台数の上限を 18 台に設定したが得られた結果は 14 台を使用しており,18 台全てを配置する必要はなかった。
また,患者発生地点に対する期待応答時間は 3.67 分という値を得た。

各患者発生地点に短時間で向かうことが可能なドクターカーの配置を得ることができた。

実験結果(配置された病院と割り当てられた患者発生地点の対応)

図 1 実験結果(配置された病院と割り当てられた患者発生地点の対応)

5 まとめ

本研究では,ドクターカーの配置問題を施設配置問題と捉え,患者への期待応答時間を最小化する最適化モデルを構築した。
数値実験では東京 23 区に対して最適化モデルを適用し,少ない台数で患者への短い応答時間を達成するドクターカーの配置を得ることができた。

今後の課題は,東京都 23 区を 8 つのグループに分割したことが結果に影響した可能性があるため,
地域を分割せずにより細かな地理情報を用いて分析を行う必要がある。
また,取材から,1 つの病院に複数台のドクターカーを配置することは現実的ではないことが明らかになったため,
このような運用上の制約をモデルに取り入れ,実際の医療体制に即した最適化を検討することが今後の重要な課題である。

参考文献

[1] 厚生労働省 搬送手段の多様化について(ドクターヘリ・ドクターカー)
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000951125.pdf

[2] 田中健一,「数理最適化入門(4):施設配置の数理モデル」,応用数理, Vol.23, No.4, pp.178-183, 2013.

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