1 はじめに

大人数での打ち上げや集合を行う際,参加者それぞれの出発地点が異なるため,特定の参加者に負担が偏ることがある。
既存の地図アプリや検索システムは「最短経路」や「最安ルート」の検索には優れているが,参加者全員の負担を均一化する
「公平性」を考慮した集合場所を提案する機能は十分に備わっていない。

本研究では,参加者全員の「所要時間」と「運賃」の両面から公平性を評価し,その差(最大値と最小値の幅)を最小化するような
「最適な集合駅」を算出するシステムの開発を目的とする。

2 問題設定

本研究では,複数の参加者がそれぞれ異なる出発地点から移動し,全員で一つの場所に集合する場面を想定する。
この際,単に参加者全員の移動時間の総和を最小化するのではなく,参加者間での負担の偏りをなくすことを目指す。
以下に,本研究における具体的な前提条件と解決すべき課題を定義する。

2.1 対象とする状況

友人同士の集まりや部活動の打ち上げなど,大人数での移動を伴うイベントを対象とする。
参加者はそれぞれ異なる最寄り駅(出発駅)を持ち,都内および近郊の主要な駅(集合候補駅)の中から,最適な一箇所を決定する必要がある。
各経路における移動コストとして,本研究では「所要時間」および「運賃」の 2 つの指標を採用する。
これらは一般的な乗換案内サービス等から取得可能なデータに基づくものとする。

2.2 公平性の定義と最適化の指針

既存の地図アプリ等で用いられる「最短経路探索」は,個人の移動コストを最小化するものである。
しかし,集団行動においては,ある参加者の移動距離が極端に長く,別の参加者が極端に短いといった不均衡が生じることが課題となる。

そこで本研究では,「公平な集合場所」を以下のように定義する。

  • 参加者全員の移動コストの「最大値」と「最小値」の差(レンジ)が小さい状態を「公平である」とみなす。
  • 所要時間の公平性と運賃の公平性は必ずしも一致しないため,利用者のニーズに応じて両者の重要度(重み)を調整可能とする。

2.3 制約条件と要求仕様

最適な集合場所を選定するにあたり,以下の現実的な制約を考慮する。
第一に,各参加者には許容できる移動時間および予算の上限が存在する。
公平性が高くても,特定の参加者に過度な負担(例:移動時間が 2 時間を超える等)を強いる場所は解として不適切である。
したがって,全員が設定された上限値以内で到達できることを必須条件とする。

以上の条件を満たした上で,所要時間と運賃のばらつきを総合的に最小化する駅を探索することを本研究の問題設定とする。

3 定式化

本節では,最適な集合駅を決定するための数理モデルについて詳述する。
本問題は,制約条件を満たしつつ目的関数を最小化する 0-1 整数計画問題として定式化した。

3.1 記法と定義

モデルで使用する集合およびパラメータを以下の通り定義する。

  • 集合
    • I = {1, 2, …, m}:出発駅の集合(参加者)
    • J = {1, 2, …, n}:集合候補駅の集合
  • パラメータ(入力データ)
    • Tij:出発駅 iI から候補駅 jJ までの所要時間(分)
    • Cij:出発駅 iI から候補駅 jJ までの運賃(円)
    • LT:各参加者の所要時間の上限値
    • LC:各参加者の運賃の上限値
    • w:所要時間に対する重み係数(0 ≤ w ≤ 1)

3.2 決定変数

集合場所として選択するか否かを表す 0-1 変数を導入する。

xj =  1 (駅 j を集合場所として選択する場合)or  0 (それ以外) (∀j in J) (1)

3.3 制約条件

本モデルでは以下の 2 種類の制約を課す。

  1. 単一選択制約:候補駅の中から必ず 1 駅のみを選択する。
  2. 上限制約(所要時間・運賃):選択された駅 j に対して,全ての参加者 i の所要時間および運賃が,設定された上限値以下でなければならない。これは「誰か一人でも到達不可能な場所は選ばない」ことを意味する。

3.4 目的関数

本研究の目的は「公平性」の最大化(不公平の最小化)である。
ここで,ある候補駅 j における所要時間のばらつき(レンジ)を RjT,運賃のばらつきを RjC と定義する。

RjT = maxiI(Tij) − miniI(Tij) (2)
RjC = maxiI(Cij) − miniI(Cij) (3)

これらを用い,重み w を考慮した加重和を最小化する。

3.5 数理モデル全体

以上の要素をまとめた定式化は以下の通りである。

Minimize ∑jJ xj(wRjT + (1 − w)・RjC) (4)
subject to ∑jJ xj = 1 (5)
jJ TijxjLT (∀iI (6)
jJ CijxjLC (∀iI (7)
xj ∈ {0,1} (∀jJ (8)

4 数値実験

本節では,前節で構築した数理モデルを具体的な経路データに適用し,提案システムの有用性を検証する。

4.1 実験設定

現実的な利用シーンを想定し,以下の基準で出発駅集合 I と集合候補駅集合 J を設定した。

  • 出発駅(I:都内に在住する参加者が広範囲に散らばっている状況を再現するため,東京都内の駅の中からランダムに抽出した。
    具体的には,「八王子」「多摩湖」「東村山」といった郊外の駅から,「千駄ヶ谷」「秋葉原」といった都心部の駅までを含む 48 駅を対象としている。
    これにより,地理的な偏りがある状況下での公平性を評価可能とする。
  • 集合候補駅(J:大人数での打ち上げや集合を行うのに適した場所として,交通の利便性が高く,飲食店等の周辺施設が充実している主要なターミナル駅を選定した。
    本実験では以下の 9 駅を候補とする。

    J = { 新宿, 渋谷, 池袋, 品川, 新橋, 秋葉原, 北千住, 高田馬場, 上野 }

4.2 使用データ

各出発駅から候補駅への移動コスト(所要時間・運賃)を取得し,入力データとした。
表 1 に,実験に使用した所要時間データ(単位:分)の一部を示す。
なお,使用した全 48 駅のデータ一覧については,巻末の付録 A を参照されたい。

表 1 実験に使用した所要時間データ(抜粋)
出発駅 新宿 渋谷 池袋 品川 新橋 秋葉原 北千住 高田馬場 上野
千駄ヶ谷 4 12 12 15 22 29 14 34 11
高田馬場 5 12 4 24 23 24 32 0 21
桜木町 39 34 46 28 31 47 61 51 43
護国寺 19 28 4 39 28 29 38 16 36

5 数値実験

本節では,実装したシステムを用いて最適化を行い,その挙動と得られた解の特性について検証する。

5.1 実験条件

前述のデータセットに対し,以下のパラメータ設定で実験を行った。

  • 重み係数(w:所要時間と運賃の重要度バランスによる影響を確認するため,以下の 3 パターンを設定した。
    w ∈ {0.2, 0.5, 0.8}
  • 制約条件(L:本データセットには,都心から離れた出発駅(例:奥多摩エリアや八王子など)が含まれている。
    予備実験の結果,時間上限 LT を厳しく設定すると,すべての候補駅で実行不能(Infeasible)となることが判明した。
    そのため,本実験では遠方からの参加者も到達可能な現実的なラインとして,時間上限を 60 分に設定した。

5.2 実験結果

上記の条件下で最適化を実行した結果,重み係数 w の値(0.2, 0.5, 0.8)に関わらず,すべてのケースにおいて新宿が最適な集合駅として選出された。
表??に,選出された新宿駅における各指標の値を示す。

5.3 考察:制約条件の影響

重み w を変化させても解が「新宿」から変化しなかった主な要因は,時間制約の厳しさにあると考えられる。

今回のデータセットにおける出発駅は広範囲に分布しており,多くの候補駅(秋葉原や上野など)では,一部の遠方参加者の所要時間が 60 分を超過してしまう。
その結果,それらの駅はそもそも実行可能領域から除外される。新宿は都内西側の交通ハブであり,八王子方面などからのアクセスも比較的良いため,
60 分という制約ギリギリで到達可能な数少ない(あるいは唯一の)候補となっていた可能性が高い。

このことから,広域に散らばる参加者の集合場所決定においては,公平性のバランス(重み w)を調整する以前に,
全員が許容時間内に到達できるかという物理的な制約条件が,解を決定づける支配的な要因になることが示唆された。

6 結論

本研究では,大人数での集合において特定の参加者に負担が偏らない「公平な集合場所」を決定するための数理モデルを構築し,
Python を用いた最適化システムを実装した。
本システムは「所要時間」と「運賃」という 2 つのコスト指標に対し,参加者間でのばらつき(レンジ)を最小化することを目的としている。

東京都内の広範囲に出発地を設定した数値実験の結果,以下の知見が得られた。

  1. システムの有用性:重み付けパラメータや上限制約を対話的に操作できる Web アプリケーション(Streamlit)を構築し,
    複雑な条件探索を容易に行える環境を実現した。
  2. 制約条件の支配性:参加者が広域に散らばっている場合,公平性のバランス(時間重視か運賃重視か)以前に,
    「全員が制限時間内に到達できるか」という実行可能性(Feasibility)が解を決定づける最も支配的な要因となることが明らかになった。
    今回の実験データにおいては,交通結節点としての接続性に優れた「新宿」が,厳しい制約条件下におけるロバストな解として示された。

今後の展望として,現在は移動コストのみに焦点を当てている評価関数に対し,駅周辺の商業施設の充実度などを数値化した
遊べる度などの指標を導入し,より実用的で満足度の高い集合場所提案システムへと発展させたい。

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