2026 03.01 19:53
研究者情報
豊島岡女子学園高校1班 下田千聡 黒坂波那 密門麗香 遠藤まゆ 筑波大学 吉瀬研究室 野坂佳悠 但木陸 和田菜々里
日本では地震や豪雨などの自然災害が頻発しており,そのたびに多くの人が避難所生活を余儀なくされている[2]。
しかし,避難所内での生活環境には課題が多く,プライバシーの確保や動線の混雑,不公平な配置による心理的負担などが指摘されている。
特に,単身女性や高齢者,乳幼児を抱える世帯など,支援を要する人々への配慮が十分に行き届かない事例が報告されている。
また,学校体育館が避難所として使用され,生活環境の整備が課題となる事例も報告されている[3]。
このような背景のもと,本研究では避難所の生活ブース配置を数理最適化により決定することを目的とする。
世帯構成や体力,性別などの条件を考慮し,「公平性」と「安全性」を両立した配置を求めるモデルを構築した。
さらに,実際の避難所(額谷ふれあい体育館)を参考に仮想モデルを作成し,数値実験を通じて有効性を検証した。
本研究では,図1に示すような体育館を想定した避難所モデルを構築した。
避難所全体を 9 × 8 のグリッドで分割し,各マスをブースの候補地とする。
右上を共用スペースとし,トイレや配給場所に近い位置ほどアクセスが良いものとした。
避難者の属性を表1に示す。
高齢者や要介護者は体力が低く,共用スペースに近い位置が望ましい。
一方で,単身女性と単身男性は隣接を避ける必要がある。
乳幼児を含む世帯は,相互の協力を考慮して近くに配置することを望ましいとした。

図1:額谷ふれあい体育館をモデルとした避難所
| 属性 | 世帯数 | 体力値(相対) |
|---|---|---|
| 乳幼児世帯 | 10 | 1 |
| 要介護世帯 | 10 | 4 |
| 単身女性 | 10 | 7 |
| 単身男性 | 10 | 9 |
| その他世帯 | 8 | 10 |
避難者の体力データは文部科学省「体力・運動能力調査(令和5年度)」を参考に,年齢および性別ごとの体力値をスコア化した。
距離はマンハッタン距離を用い,ブースと共用スペース間の距離を評価した。
本問題の目的は,すべての避難者が感じる「苦労度」の差を最小化することである。
苦労度とは,ブースから共用スペースへの移動距離を体力値で割った値として定義する。
避難所内の各ブース候補地をノードとし,共用スペースまでの距離(cost)およびノード間距離に基づいて配置を決定する。
本節では,集合,パラメータ,変数を定義し,最適化問題を定式化する[4]。
2
(
|X|
=
3
)
2
|X|
−
2
(|X| が平方数のとき)
2
⌊
X
⌋
−
1
(それ以外)
とする.
本研究では,不公平度を「苦労度の最大値と最小値の差」(zmax − zmin)と定義し,これを最小化する。
また,世帯は近接させる(離れすぎを禁止する),単身男性と単身女性は隣接させない,子育て組は固める,要介護組は遠方に置かない,という制約を課す。
| Minimize zmax − zmin | (1) |
| subject to. ∑n∈N xp,n = 1,∀p∈P | (2) |
| ∑p∈P xp,n ≤ 1,∀n∈N | (3) |
| ∑n∈N Hardship(p, n)xp,n ≤ zmax,∀p∈P | (4) |
| ∑n∈N Hardship(p, n)xp,n ≥ zmin,∀p∈P | (5) |
| ∑p∈Ph xp,n + ∑p∈Ph xp,n′ ≤ 1,∀h∈H,∀(n, n′)∈E>1 | (6) |
| ∑m∈M xm,n + ∑w∈W xw,n′ ≤ 1,∀(n, n′)∈E<2 | (7) |
| ∑w∈W xw,n + ∑m∈M xm,n′ ≤ 1,∀(n, n′)∈E<2 | (8) |
| ∑p∈C xp,n + ∑p∈C xp,n′ ≤ 1,∀(n, n′)∈E>K(C) | (9) |
| ∑p∈A xp,n = 0,∀n∈O | (10) |
式(1)は目的関数であり,不公平度(zmax − zmin)を最小化することで,全組の移動負担の差を小さくすることを狙う。
式(2)は各組が必ず 1 つのノードに割り当てられることを保証し,式(3)は各ノードに配置できる組が高々 1 つであることを表す。
式(4)と式(5)は,組 p の配置先が 1 か所に決まることを利用して,その組の苦労度が zmax 以下かつ zmin 以上となるようにする制約である。
これにより zmax は苦労度の最大値,zmin は苦労度の最小値として機能する。
式(6)は同一世帯の組が距離 1 を超えて離れないようにする制約であり,世帯内のまとまりを確保する。
式(7)および式(8)は単身男性と単身女性が距離 2 未満にならないようにする制約である。
式(9)は子育て組が距離 K(C) を超えて離れないようにする制約であり,子育て世帯の相互協力が可能な配置を意図している。
式(10)は要介護組が遠方領域 O(cost が 10 以上)に配置されないことを保証し,移動負担の大きい組を共用スペース付近に誘導する。
本節では,額谷ふれあい体育館をモデル化した避難所を対象に数値実験を行う。
避難所の居住スペースを 9 × 8 のグリッドとして表現し,ブース数は 72 とした。
また,配置対象となる組数も 72 とし,各組を 1 マスに割り当てる設定とした。
求解には数理最適化ソルバー Gurobi を用いた。
本問題は組数や制約条件の組合せにより計算時間が長くなるため,今回の実験では計算時間の上限を 250 時間とし,
この時間で打ち切った解を採用した。
図2に得られた配置結果を示す。
まず,明示的に「同属性を固める」制約を設定していない属性についても,同じ属性を持つ組がある程度まとまって配置される傾向が確認された。
これは,目的関数として不公平度(苦労度の最大値と最小値の差)を最小化しているため,
共用スペースからの距離や体力の近い組が,結果的に近い領域に集まりやすいことが一因であると考えられる。
次に,乳幼児を含む世帯および要介護者を含む世帯はいずれも共用スペース付近に配置されることが確認できた。
これにより,移動負担が大きい組が遠方に配置されることを避けられており,生活上の利便性の観点から望ましい結果である。
一方で,単身男性と単身女性の配置については,多くの場合に近接が回避されているものの,斜め方向に配置されている例が確認された。

図2:実験結果
以上より,本研究で構築したモデルは,公平性(移動負担の偏りの抑制)と安全性(単身男女の近接回避)を同時に考慮した配置を与える点で有効であることが確認された。
また,体力や属性など個人差の大きい条件を同時に扱いながら配置を求められるため,人手による割り当て作業の補助としても有用であるといえる。
本研究では,災害避難所における生活ブース配置問題を数理最適化によって定式化し,公平で安全な配置を自動的に求める手法を提案した。
数値実験の結果,体力や性別,家庭構成などの要素を考慮しつつ,不公平度(苦労度の最大値と最小値の差)を抑えた配置が得られることを確認した。
また,要介護者や乳幼児を含む世帯が共用スペース近くに配置されるなど,移動負担の軽減という観点でも妥当な結果が得られた。
今後の課題として,複数の共用スペースやトイレ・出入口などを同時に考慮した拡張モデルの検討が挙げられる。
さらに,現実の避難所運営では要望が多岐にわたり,すべてをハード制約として課すと実行可能解が存在しない場合や,計算時間が著しく増大する場合がある。
そこで今後は,制約が限界となる状況に対応するために,制約違反を許容するペナルティ変数を導入し,一部のハード制約をソフト制約へ置き換えることを試みる。
具体的には,制約違反量に応じた罰則項を目的関数に加えることで,「可能な限り制約を満たしつつ,必要な場合のみ最小限の違反を許す」配置を求められる枠組みを検討する。
また,能登半島地震など実際の避難データを用いた検証を行うことで,より現実的な避難計画立案への応用を目指す。
[1] e-Stat「体力・運動能力調査(令和5年度)」,
https://www.e-stat.go.jp/.
[2] 内閣府 防災情報「令和5年 能登半島地震における避難所の様子」,
https://www.bousai.go.jp/.
[3] 空飛ぶ捜索医療団 ARROWS「小学校体育館での避難所整備を実施しました」,
https://arrows.peace-winds.org/journal/7508/.
[4] 田中健一,“数理最適化入門(4):施設配置の数理モデル”,応用数理,2013.