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2024 11.07 18:00

異分野融合/連携ゼミナール 2024年度②「仮想と社会」開催レポート

2024年11月7日(木)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「仮想と社会」を開催しました。筑波大学システム情報系の岡瑞起氏と、地球科学可視化技術研究所の芝原暁彦氏を講師に迎え、可視化やメタバース技術と人間・社会の関係について、理論と実践の両面から講演いただきました。当日の講演概要を以下にまとめましたので、ぜひご一読ください。

Open-endednessな大規模言語モデルをめざして
岡瑞起(筑波大学 システム情報系)

従来の機械学習は制御可能なもので、入力に対する出力はいつも一緒だった。しかし、大規模言語モデルでは、同じプロンプトに対しても出力が変わるなど、入力に対してどのような結果が出力されるかを予測するのが難しくなった。これまでの社会では、コントロールできない機械を使うのは危ないという考え方だったが、ChatGPTが登場して一気に人々が大規模言語モデルを使うようになってから、それを受け入れるように社会のシステムを変えようということになった。これは、人間と機械とがどのように付き合っていくかという中で、とても大きなパラダイムシフトだと思う。付き合い方を変えるにあたって2つの方法があり、1つ目は制御しようというもので、エラーやハルシネーションが起こらないようにすること。もう一つが、研究でもやろうとしている人工生命的なアプローチで、これまでは答えのある問いに収束的にAIを使おうとしていたものを、発散的に、創造性につながるように使っていこうという方向性。これをOpen-endednessと呼ぶ。

Open-endednessを目指したアルゴリズムの大元になっているのは遺伝的アルゴリズムである。一般的な遺伝的アルゴリズムはランダム初期化後に良個体を選び、交叉と突然変異で世代更新していくという流れだが、これは最適化に収束し停滞しやすい。これを回避するために、ノベルティサーチといって目的関数を設定して評価するアルゴリズムができた。ただし、これでも真のオープンエンドには至らず、どういうパスをたどれば答えに近づけるかということがわからない場合が多い。人間は、生成AIが出した候補の中からどれが面白いのかをピックアップする能力が非常に高く、これがまさに答えに向けたパスを選択するということである。この能力をどう機械に持たせるかということが、Open-endednessに関するビッグチャレンジとなっている。

目的への道はセレンディピティで見つかると考える。たとえばロボット掃除機のルンバも、商業清掃、地雷除去、玩具などの複数の案件で積み上げた技術の積み重ねで、くまなく清掃する能力があり大量生産が可能であるという家庭用掃除ロボットに結実した。Open-endednessに関する研究はまだ途上であり、収束ではなく発散的に大規模言語モデルを活かすことを目指して研究を続けていきたい。

仮想現実による「未来の博物館」実現のための技術とその社会実装
芝原暁彦(地球科学可視化技術研究所)

私自身は古生物学者であるが、現在は地球科学可視化技術研究所の所長として、映像技術と組み合わせることで、化石などの収蔵物をVRやRVを使って展示する「未来の博物館」を作りたいと考えている。未来の博物館の構成要素は、「地質と空間情報」と「化石と拡張現実」の2点だと考えている。

地質と空間情報では、プロジェクションマッピングが代表的な手法になる。DEMやLiDAR、調査船ソナー、ボーリング・反射法などさまざまな方法で調査された地質情報を、鉄道・道路・水道などの社会基盤や防災指標と併せて3m以上の巨大な立体模型に投影し、平面図では見えない法則やリスクを示すことができる。NHKの番組で取り上げられたことを機に立体模型を全国の自治体に展開していて、内容は地域の強みや課題に合わせてカスタムしている。特に、社会からの要請が強い防災の分野で、浸水想定などを可視化することで活用を進めてきた。そんな中、迎えたコロナ禍では、施設が閉鎖されるなか、収蔵されていた3Dデータをメタバースに移行し、化石標本などのVR体験や遠隔解説を実装した。権利関係の問題など課題もあったが、コロナ禍をきっかけにメタバースの社会実装が進んだ。

もう一つの柱である化石と拡張現実では、NTTなどと連携し、実物大の恐竜を施設内に図鑑のように配置できるARアプリを開発した。恐竜のDNAはすでに復元困難であり、これまでの調査でわからない部分の再現をするのにARは適している。推定した生態をARに再現し、国交省が提供する3D都市データと組み合わせることで、現代の東京のビル群の中を翼竜が飛ぶ映像なども作成可能になっている。発掘地点の位置情報と地質史に基づき、自治体のストーリーと結ぶ体験を配信したり、XRで現地の掘削方針共有も支援することができる。Unityで標本属性・展示3D・動線までを統合管理することもできるようになっている。

最近は、地質×空間情報と化石×拡張現実を組み合わせた社会実装を高いレベルで行うことを目指している。ある自治体では浸水シミュレーションにXRを重ね、危険箇所と行動指針をポップアップ表示できる、プロジェクションマッピングの限界を超えて情報を多重化できる仕組みを作った。将来は街中でも日常的に防災情報を共有できるようになるかもしれない。他にも、福井の大学に新設された恐竜学部では、恐竜だけでなく、その可視化実装のための技術を含めて学ぶGIS・防災などを束ねた「恐竜防災学」を実装しようと努力している。

文責:浦田淳司

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