研究者情報

浦田 淳司 中山 凛空 中嶋 駿

取組の概要

背景と目的

令和6年1月1日に令和6年能登半島地震(以下、能登半島地震)が発生し、能登半島を中心に広範な被害が生じた。多数の家屋倒壊が発生し、2024年11月時点で、死者・行方不明者450人の人的被害が生じている。特に被害が集中したのは奥能登・中能登に位置する輪島市、珠洲市、穴水町、能登町である.全壊住宅は約5900棟、半壊住宅は約16000棟に及び、地震直後には最大で約4万人が避難所に避難した。
本ケースでは、能登半島地震における生活インフラ被害に着目する。電気、水道といった生活インフラの被害により、日々の生活や復旧作業に必要な物資・エネルギーを被災地に届けられなくなり、影響は大きい。無論、被災インフラの管理組織は、早期復旧を目指すが、被災地域は広く、時間がかかる。その間、管理組織やマスメディアは復旧状況を日々発信し、被災者などへ知らせている。情報により、被災者に少しでも安定的な暮らしを届けることに繋がる。
情報はWEBサイトでも発信されるが、当然、過去の情報は、被災者には価値が低く、混乱を生みかねないため、上書きされ、発信される。しかしながら、将来の研究や実務において、発災後の状況を詳しく知り、被災・復旧・復興に関する共通知見を蓄積するためには、復旧過程の情報は価値が高い。そこで、本データバンク・ケースバンクプロジェクトでは、能登半島地震の復旧期における生活インフラ回復過程の時空間データ化を行った。これにより、未来の研究・実務者が抱える災害復旧の状況がわからないという課題を解決することに繋がる。また、あわせて、データの可視化および周辺状況からわかった災害復旧期の生活インフラに関する傾向を分析し、報告する。

データ収集方法

本プロジェクトでは、停電戸数、避難所滞在者数、給水所設置場所、通水復旧状況、ガソリンスタンドの営業状況、浴場・仮説浴場の開設・営業状況の6種類のデータを整備した。整備の対象地は、能登半島の6市町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市、志賀町)である。なお、データおよびデータ作成方法の詳細は、データバンク(2024 年度プロジェクト:DB2024-06)で公開しているので、詳しくはそちらを参考にしてほしい。

収集方法の概要は次の通りである。

  • 停電戸数:北陸電力送配電の石川県の停電情報を参照して整備。経済センサスの小地域のポリゴンデータを用いて、空間情報を付与。
  • 避難所滞在者数:各自治体のHPで発信される情報と石川県防災ポータルの情報を参照。発災直後は両者の情報に2日ほどのずれがあったが、途中から解消した。石川県防災ポータルの情報を基にデータを整備し、場合によっては自治体HPの情報を活用し、整備。施設名から座標を付与。
  • 給水所設置場所:当初各自治体のHPで発信される情報を参照していたが、途中からNHKの緊急対応のための速報サイトと情報が完全に一致したため、両者を参考に整備。施設名から座標を付与。
  • 通水復旧状況:各自治体のHPで発信される情報を参照して、整備(穴水町のみ非公開のため、作成なし)。自治体によって公開される情報形態が異なり、テキストで通水した町丁名を公開する場合と地図により通水エリアを公開する場合があった。いずれの場合も、通水情報を町丁目ごとにテーブル化した上で、ジオリファレンスにより空間情報を付与。
  • ガソリンスタンドの営業状況:資源エネルギー庁住民拠点サービスステーション等検索で公開されている営業情報について、Htmlファイルからテキストを読み込み、アドレスマッチングを行い、整備。
  • 浴場・仮説浴場の開設・営業状況:当初各自治体のHPで発信される情報を参照していたが、途中からNHKの緊急対応のための速報サイトと情報が完全に一致したため、両者を参考に整備。各施設住所からアドレスマッチングにより座標を付与。

データの可視化

停電戸数、避難所滞在者数、給水所設置場所、通水復旧状況、ガソリンスタンドの営業状況、浴場・仮説浴場の開設・営業状況について、整備データを可視化した結果は次の通りである。

●停電戸数(動画はこちら

●避難所滞在者数(動画はこちら

●給水所設置場所(こちらからも再生可能)

●通水復旧状況(こちらからも再生可能)

●ガソリンスタンドの営業状況(動画はこちら

●浴場・仮説浴場の開設・営業状況(こちらからも再生可能)

考察と提案

本ケースでは、電気の復旧状況と、水の復旧状況について、特に考察する(参考:寺山)。電気の復旧状況は、過去の阪神淡路大震災や熊本地震といった地震災害と比べて、遅い復旧となった。この原因としては、送電側、発電側の被害・影響は限定的であったが配電設備の被害の影響が多大であったため、および、被害範囲が広かったためと報告されている。特に、道路途絶により被害状況の巡視さえできない地域などもあり、95%復旧に一ヶ月要している。ただし、災害復旧作業自体は、電力会社間の復旧時の連携計画・手順書に従って、円滑に進んだことが報告されている。これは、令和元年房総半島台風の際の復旧対応時に電力会社間で復旧のための作業ルールの相違があり、現場で混乱が生じたという課題があったため、手順書が準備され、課題が解消したということである。また、避難所における電力活用自体は、大規模避難所では発電機車で応急送電、小規模避難所では自家発電により対応されたため、混乱は少なかった。

水の復旧については、大まかには、まず給水所の一時開所、次に24時間開所になり、その後、上水道の復旧(通水)という順になる。この上水道の復旧に長期間を要したことが能登半島地震の生活インフラの復旧の特徴である。原因の一つは、七尾市南部の上水は、県中部からの送水による供給で賄っており、その120km程度の区間を繋ぐ送水管の複数の箇所が被災し、その復旧に時間を要したことがある。もう一つは、珠洲市の上水の9割を担っていた浄水場が被災し、その修繕に時間を要したことがある。電気と同様に、道路啓開がなされていない個所は水道管の復旧が難しく、連携しながら、復旧作業を進めたことも報告されている。また、電気は北陸電力が地域全体を賄っているが、水は自治体ごとの運営であり、自治体により復旧状況が異なることが可視化からもわかる。

本プロジェクトにおけるデータ整備および可視化によって、災害復旧期について非常に多様な分析が可能となるデータが埋没している可能性が明らかになった。災害情報の発信は、国交省、各自治体、電力会社などの保有する一次情報を公開するタイプ、NHK、防災科研、石川県防災ポータルなど一次情報を収集し、ポータル化して公開するタイプがある。多様な被災者の存在や迅速な情報発信のニーズを考えれば、甲乙をつけられるものではない。同時に、どちらのタイプでも被災者の情報の閲覧性を踏まえ、過去の情報は上書きし、削除される場合が多い。災害復旧が落ち着き、災害をレビューする際には、複数インフラの復旧過程の情報が有用な場合がある。どちらのタイプのサイトでも、本プロジェクトで整理したように、過去の情報をアーカイブ化し、オープンデータとして公開することを原則とすることで、有効な被災・復旧・復興に関する共通知見化および復旧対応に繋がるのではないだろうか。

後記

地震発生直後から現地はもちろん、後方でも色々なことが起きた。筆者が所属する土木学会の土木計画学研究委員会においても、令和6年能登半島地震対応特別プロジェクトが立ち上がり、①被災地域・地元大学の側方支援・技術支援、②即応的な対応策の検討および実施機関への提示、③被災・復旧・復興に関する共通知見化(災害現象の理解のため、将来災害に備えるため)の三つのミッションを掲げ、活動を行った。上記で紹介したデータ収集方法は、毎日、各サイトからコピーするという大変地道なものであるが、まとめて可視化すれば、大きな傾向を知ることができる。また、散逸される情報を留め置くことで、我々が思い付かない或いは手に入らないデータと、誰かが組み合わせることで、新たな知見が得られるかもしれない。それが次の減災・防災に繋がるのではないか。そんな未来を見据えながら、今後もデータバンク、ケースバンクの活動に携わっていきたい。

参考文献

  • 寺山 一輝, 本谷 心彩, 浦田 淳司, 中山 凛空, 中嶋 駿, 山口 裕通, 能登半島地震における生活インフラの復旧過程と滞留人口の関係, 土木学会論文集, No. 81, Vol. 20. (掲載決定)
  • 寺山 一輝, 本谷 心彩, 浦田 淳司, 中山 凜空, 中嶋 駿, 山口 裕通: 能登半島地震における生活インフラの復旧過程と滞留人口の関係,第70回土木計画学研究発表会, No.P30-03, 2024.11.
  • 能登半島地震復興まちづくり支援マップ:URL
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